私がおすすめするのは「妄想私の履歴書」作戦である。日経の名物コラム「私の履歴書」を真似し、自分が不本意な希望外の異動先で成果を出す、サクセスストーリーを書いてしまうのである。
「営業で何度も社内でMVP表彰されてきた私にとって、突然のコールセンター責任者への異動には驚いた。何度も部長や課長を突き上げてきたので、左遷されたのかと思った。しかし、役員の“新しい武器を身に着けてこい”という言葉を信じた。ここで、私は営業時代の経験を活かし、攻めのコールセンターへの変化を促した。顧客からの電話問い合わせは、課題を聞き出すチャンスだと捉えたのだ。これにより、コールセンターは追加注文を稼ぐ場に変化していった。また、そこで吸い上げた既存の商品の課題を商品企画部門に共有し、強い商品づくりに貢献した。コールセンターのスタッフのモチベーションアップにも取り組んだ。3年後に営業部に復帰し、部長に就任した。このときの経験が、組織的営業力を高めることに貢献した」というように。
異動は、違う立場から組織をみるチャンスである。これまでの部署や職種のおかれている状況や課題を客観的に把握することに努めよう。
何より、その組織に馴染むことが大切である。多様性の時代と言われているが、まずは自社の異動先に溶け込むこと。そのために、その異動先の人たちとの会話を大切にすること、謙虚に新しい業務に取り組むことが言うまでもなく大切だ。
なお、もし本当に異動に納得がいかない場合は、上司や人事に直談判するのも手である。まれにではあるが、異動が白紙になることもある。少なくとも異動に関わる事情を理解することができる。
「希望通りの異動」に気をつけろ
希望外の異動の人の話を中心に書いたが、むしろ気をつけなくてはならないのは、希望通りの異動や念願の昇進・昇格を叶えた人である。異動先にまったく馴染めない、合わないということもあり得る。希望か希望外かは別として、その部署・仕事に馴染めるかどうかという問題とどう向き合うかは考えておきたい。
自分語りになるが、私は自分が希望した異動よりも、希望しなかった異動の方が得られるものは多かった。自分では頼まないメニューが、のちに大好物になるようなものである。
いずれにせよ、異動による育児・介護などへの影響は避けたいものの、異動するからにはこの機会をどう活かすかを考えたい。世の中が騒がしいが、変化をポジティブに捉えよう。異動する朝日新聞記者にも、今回の異動が朝日新聞を、日本のメディアを強くする、そして記者復帰した際に記事の書き方が進化するのだと、ポジティブに捉えることを期待したい。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら