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新駅も開業 虎ノ門ヒルズは街ブランディングの新次元を示せるか (1/2ページ)

秋月涼佑
秋月涼佑

 初めて訪れる地方の街は、その土地固有の印象でいつも新鮮に感じます。一点いつも不思議だと思うのは、一般に人口密度が低いと言われる地域でも、仕事で訪れるような市街地ともなれば、東京とあまり変わらない密度で建物が建ち人が住み働いているように見受けられることです。城下町以来のヒューマンスケール志向というのでしょうか、日本は土地がないから生活空間が狭いとよく解説されますが、むしろ日本人ならでは適度な密集度での都市生活にこそ心地良さを感じているのではないでしょうか。

 それにしても、国連の都市化率の定義によれば90%以上が広義の都市部に住むとされる日本人です。「ぽつんと一軒家」という番組が成立するのも、逆に言えば大多数の人が都市生活を選択しているからに違いありません。

 元祖“ヒルズ族”から17年

 そんな都市生活者の国日本でも、首都東京ど真ん中での超大規模再開発ともなればやはり注目度は別格です。2003年開業の「六本木ヒルズ」から17年の時を経て森ビルが満を持して再開発に取り組む「虎ノ門ヒルズ」の全貌が現れつつあります。2013年にすでに開業していた森タワーに続いて今年1月にはビジネスタワー、そしてこの6月6日には東京メトロ「虎ノ門ヒルズ駅」が開業したのです。

 六本木ヒルズは、職住近接のライフスタイルを超都心で提案し、IT長者も多く住むなどして一時代を築きました。屋上にヘリコプターポートを備え、ハイブランドのブティックやグローバルブランドの高級ホテルなどを擁し、世界のどの都市にも伍していこうと言う時代の空気感をまとっていました。デフレの時代を邁進する日本の中ではある種異彩を放っており、それをいとわない気概と、エネルギーをもった人々のステータスとなりました。

 それから17年の月日がたち、六本木と比べても歴史も文化の蓄積も負けずとも劣らない虎ノ門の再開発がいよいよ佳境となっているのです。

 「虎ノ門」は、江戸城外堀に実在した城門「虎ノ門」に由来するそうです。江戸時代は近接する愛宕山が江戸のランドマークで徳川将軍家にまつわる逸話にも事欠きません。現代になってもアメリカ大使館やホテルオークラもほど近く、都心中の都心であることに、異論はないはずです。でも今回の再開発までは、古くからの市街地だった分、小規模なオフィス、素朴な商店、住居が点在していて、都心にしてお世辞にも近代的な街という感じはありませんでした。

 経済的価値の大きい「街のブランディング」

 考えてみれば、街のブランディングほど経済的価値が大きいものも他にそうはないかもしれません。

 「ブランドは利益である」という考え方があります。ブランディングが成功し自他ともに価値を認められた商品やサービスは無名の同等品よりも高く売れる分高い利益を得られるという、ブランディングの価値構造を表した言葉です。

 街をブランディングの視点で見てみると、東京の都心ひとつとっても利便性や機能だけでは測れない、歴史や文化など複合的な印象や記憶の積み重ねでそれぞれの街には驚くほど大きなブランド価値の差が生じています。地価や賃料として流通する街のブランドの価値の差は高級ブランド品のそれをはるかに上回るに違いありません。

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