働き方

通勤している暇はない 一過性のテレワークなら「日本沈没」 (2/2ページ)

 「大変と言えば大変ですが、考えてみてください。自由な人間でいるためには当たり前のことなんです。労働法は産業革命が進んだ19世紀の欧州で、指揮命令されて働く労働者を保護することを目的としてできてきた法律です。ここで想定されていた労働者というのは、指示通りに経営者の手足となって動くいわば奴隷の言い換えです。だから会社の考えに従って訓練され、上からの命令された通りに働く方がいいというのは、奴隷がいいというのと同じなのです」

 「人に教えられるようなことは、すでに創造的なものではありません。何を生み出すかは自分でしか考えられないし、自分が考えなければ人との差がつかない。通勤とか無駄なことをしている暇はない、自己研鑽(けんさん)に時間を使わなければという意識が出てきてもおかしくはない」

 --自由を得るということは優しくはないのですね

 「政治思想家のハンナ・アーレント(1906~75)は、人間にとって大切なのは政治的な活動であり、生きるために必要な労働は本当は奴隷の仕事なのだと言いました。アメリカの建国の歴史でも、職業的に自立した人々が民主主義を支えるという考えがありました。仕事にエネルギーを取られて政治に関心を持たない雇用労働者ばかりの社会は、民主主義にとってもよくないでしょう。技術の発達により、かつての奴隷的な仕事はロボットなどに取って代わられる時代になってきたのですから、それはうまく活用すべきだと思います」

 --障害者にとってテレワークは福音ですね

 「移動が困難な人たちには確実に、働く可能性を広げます。障害とは可変的な概念であり、技術の発展や社会が求めるものによって変わってくる。テレワークが可能となると、車椅子であるとか、対人関係に問題を抱えることなどが障害でなくなる可能性がある。むしろ知的創造性が求められる時代には、創造性がないことのほうが障害だということになるかもしれません」

 コロナ状況は黒船

 --ところで大学でも急に、オンライン授業を導入し始めましたね

 「この数カ月ずっとオンライン授業で、私はこの状況に満足しています。ゼミでは学生が全てパソコンの画面上にいて、むしろ学生との距離感が縮まっている感じです。授業というのはある種、情報の交換のようなものですが、オンラインのほうが、学生とより密にそうした交換ができる感じです」

 --将来を担う若者たちは、テレワーク的な働き方をどう感じているでしょう

 「調査したわけではないが、若者たちは前向きに評価しているんじゃないかと思います。もともと平成時代を通じて若者の個人意識が高まり、会社のために滅私奉公的に働いても幸せになれないと、昭和的な働き方に疑問を持ち始めた。自分の時間や価値観を大切にした働き方、生き方をしたいといった流れがあったなかで今回、コロナ感染の拡大によるテレワークがどーんと来たのです」

 --コロナは社会を変えるというより、すでにある動きを加速させるのですね

 「テレワークへの流れは不可逆的だが、10年はかかると思っていたことが一挙に現れている感じがします。外圧がなければ日本はなかなか動かない。コロナウイルスでもたらされた状況は、黒船が来て変えろといわれているのと同じ。この状況を生かせなければ、日本は沈没するというくらいの危機感を、私たちは持たなければなりません」

 【プロフィル】おおうち・しんや 神戸大大学院法学研究科教授 昭和38年11月、神戸市生まれ。東京大法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(博士)。技術革新と労働政策を研究。近年のテーマは、AIの活用やデジタル化がもたらす雇用への影響や、テレワークなど新しい働き方の拡大に伴う政策課題。著書に「会社員が消える」(文春新書)など。

 【ニュースを疑え】「教科書を信じない」「自分の頭で考える」。ノーベル賞受賞者はそう語ります。ではニュースから真実を見極めるにはどうすればいいか。「疑い」をキーワードに各界の論客に時事問題を独自の視点で斬ってもらい、考えるヒントを探る企画です。

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