現在、ロロピアーナだけでなく、さまざまなクライアントのためにグラフィックからインテリアデザインまで手掛ける。写真も撮るが、すべて現場で学んできた。彼女のクリエイティビティは審美眼が先行してきたのだ。
「私が得意とするのは、インテリア空間の一部に手を入れて“暖かくする”ことね」
こうした仕事の経験を経て布地もちょっと触れば即座に質感が分かり、「質の劣るものには戻れない」。そして、その感覚は学生である彼女の娘にも受け継がれている。
(彼女は、このような話をしながら、一つ一つの感覚の違いを、自宅にある具体的なモノや本をぼくに見せながら、説明してくれる)。
一方、兄のステファノについても触れておかないといけない。彼はオルビエートで10人程度の工房を経営している。自ら手を動かす職人でもある。テキスタイルや革などを扱い、独自の商品やハイエンドブランドのために製品を仕立てあげる。自転車、バイク、自動車の外装を本革で装飾もする。したがって、仕事上のつきあいも深い。
アンナ・マリアは旅にもよく出かける。
「自然環境は光と色のヒントになり、都市は歴史のエッセンスを吸収するために役立つ」
特にフランスは好きだ。美術館にも足を運ぶことが多い。自宅に何気なくフランスの古い教会の柱のコンポーネントが飾られている。
前述した疑問、なぜこんなにも違った素材、カタチ、色のものが同じ空間のなかにありながら調和を感じるのだろう、と聞いてみた。
「よくご覧なさいよ。これとこれは一見違うように見えるけど、この要素とこの要素はお互いに繋がるでしょう?」とアンナ・マリアは説明する。とても納得がいく。