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ビジョンの扱いに気をつけよう 日々の諸々を練り込んでいくことが大事 (2/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 それから十数年を経たクリスマス。動物的な感覚を大切にしていたボスの奥さんが急死した。その彼女はとても面倒見のよい女性で、自分たちの実の子4人、養子4人の合計8人の子育てをしながら、親がドラッグや病で十分な世話をかけてもらえない子どもたちの支援もしていた。

 八面六臂とは、こういう夫婦のためにあるような表現だが、特にこの奥さんの起動力はすさまじかった。旦那さんである、ぼくの元ボスは、その天真爛漫とエネルギーの塊が混在した女性に「動物的」に惹かれ、彼女は彼女で日々の冒険に挑む男性に惹かれていたのだと思う。

 クリスマスの翌日、大雪に見舞われたトリノの教会で葬式が行われた。その際、亡くなった彼女と長年のつきあいがあった神父が、ミサのなかでこう語った。

「彼女は、遠くにあるビジョンを見つめながら、毎日、毎日、ほんとうに細々とした雑事に手を抜かずにこなしていました。そうしながら、彼女はその細々としたことを、ビジョンにインテグレートしていったのです」

 イタリア語でこの話を聞いた瞬間、ぼくはインテグレート(integrate)という言葉が身体で分かった。インテグレートに対して、構造を事前の設計に沿ってつくっていくとのイメージをそれまでもっていた。が、日々の諸々をアップデイトしながらビジョンに練り込んでいくことでカタチにしていくプロセスなのだと気づいた。

 ちょうどぼく自身、これまでの仕事のキャリアの数々をすべて投入できるプロジェクトに出会い、新たに進むべきある方向が見えていた頃だ。まさしく、その時の思考や振る舞いをインテグレートとの言葉で括れると、神父の言葉で実感したのである。

 恩人の葬儀で受け取った贈り物だった。今からもう十数年前の話だ。

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