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ニューノーマルに「おしゃれなマスク」はふさわしいか? (2/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 ブルネッロ・クチネッリは3月初旬にパンデミックに入ってから、常に我が道を歩んでいる。多くの高級ファッションブランドが医療施設への寄付や医療従事者への衣服の提供などを競って広報した。

 実際、クチネッリも同様のアクションを取ったのかもしれない。ただ、それを大きな声で語るよりも、世界各国の人々に向かって「天災にも魂はある。賢明な人生の師になり得るのだ、というアリストテレスの言を心に刻みたい」との社長の言葉を静かにおくりだし、それを手紙という形式に託した。イタリア全土がロックダウンして1週間ほど経た頃だ。

 4月に入ってからの2通目の手紙には、「孔子の言葉の中に私を魅了した一句がある。『遠くのことを見通せない者は、近くの不幸にさらされる』」と記されていた。そしてその月の下旬、生産活動の再開が可能になったとき、「非常に困難な時は過ぎ去りました。やがてあなた方にも夜明けが戻ってくることでしょう」と3通目を出した。

 言葉のもつ力を十全に出しきっている、とぼくは一連の手紙を読んで思った。自然に翻弄されながらも、自ら自然体で生きていこうとの強い意志が感じられた。

 7月になり、このパンデミックで在庫となった衣服、工場出荷レベルのコストで3千万ユーロ(およそ36億円相当)を世界中の援助を必要とする人たちに贈ることに決めた。タグをBrunello Cucinelli for Humanityと付け替え、小包にして送付する。

 およそ半年間、世間の目を一挙に集めるより、自分たちの感覚に丁寧に沿いながら自分たちの道を選びながら彼らはやってきた、とぼくの目には映ってきた。

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