社会・その他

“幻のトンネル”から見る日本の土木技術の底力 日本遺産認定きっかけに注目 (1/2ページ)

 万葉集にも「畏(かしこ)の坂」と書かれ、長く恐れられていた日本有数の地滑り地区が大阪府柏原市にある。大阪府と奈良県の境に位置する「亀の瀬」地域だ。かつては甲子園8個分以上の面積が30メートルも地滑りした場所だが、50年にわたって行われた世界最大級の地滑り対策工事によって、今は地滑りを防いでいる。そして現在、その地域は人々が自然災害に向き合ってきた歴史遺産として、生まれ変わろうとしている。(大島直之)

 90年前の痕跡そのままに

 溶岩を含んだ層と粘土層が重なった地層が原因で、古代から現代まで地滑りを繰り返してきたとされる亀の瀬。その痕跡を確かめるのにうってつけの場所がある。「幻のトンネル」と呼ばれる、JR関西線の前身、旧大阪鉄道のトンネル「亀瀬隧道(ずいどう)」だ。

 亀の瀬では昭和6年から7年にかけて発生した大規模な地滑りで、甲子園約8個分以上にあたる32ヘクタールの土地が大和川に向かって約30メートル移動し、川幅は狭まり、上流部は浸水被害を受けた。隧道にも土砂が流れ込み、トンネルは崩落したという。

 平成20年、そのトンネルの一部が発見され、現在、予約制の見学会が定期的に開かれている。総レンガ造り、高さ約4・8メートルのアーチ状のトンネルの天井には黒いすすの跡が残り、かつて蒸気機関車が走っていたことを物語る。

 「今、亀の瀬の地滑りの生々しさを目の当たりにできるのはここしかありません」

 残された約60メートルのトンネルの行き止まりで、ボランティアガイドが指し示したその先には、レンガが崩れ、土砂が大量に流入した約90年前の様子がそのまま残されていた。

 50年にわたる対策工事

 隧道の崩落を招いた昭和初期の地滑りのあと、国は37年に対策工事に乗り出す。対象面積は約85ヘクタール、総工費約850億円にも上り、工期は平成23年まで約50年間続く難工事だった。

 「JR関西線の車窓からは、大和川側の斜面に、常時5、6本の巨大タワークレーンが立っているのが見えたものです」

 大和川河川事務所調査課の坂本竜哉建設専門官はこう振り返る。地滑りの動きを抑えるために地中に鋼管杭(くい)工560本とコンクリートを流し込む深礎工という杭を170本打ち込んだ。深礎工のうち55本が世界最大級で、直径6・5メートル、長さ最大96メートルとなった。

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