他人をたてて自分が裏に回るとか、自分が犠牲になってチームが上手くいけばいいとか、これらは日本で美点として捉えられる。これら自体は決して悪くない。
また、それはそれで十分な自己表現だ。表立ってする発言だけを自己表現というのではないだろう。
反省されやすいのは、態度の選択が奥ゆかしすぎるときだ。自らの感情や意見を表に出しても良いと周囲が思うときでも、それを控えてしまう。これは「出過ぎた真似だ」「感情を表に出すなど子供っぽくはしたない」と非難されることを恐れている。
だから自分を表に出すことを我慢することにする。自己表現が下手なのではなく、自分を抑えるのが得意なのである。
問題は得意でありながら、それを自分の強みとは正しく自己評価するに至りにくいことなのだろう。
患者が歯医者の手を噛まない文化を再評価すべきではないだろうか。強烈な男性的なリーダーシップが歓迎されず、他人を慮りながら機敏な決断に躊躇しない女性的なリーダーシップが求められる時代にあって、殊に、である。
最後は田北さんの言葉で締めよう。
「スウェーデン人も、自然に我慢強かったですよ。病院に勤めて、最初に看護婦長からあった言葉は『ドクター田北、ローゴンという言葉を知っている? これは、ほどほどに、という言葉なのよ。スウェーデンは一隻の船なの。そこであなた一人が自己主張したら船が揺れて、皆が迷惑するのよ。何事もほどほどに。ローゴンという言葉を忘れずにここで過ごしてね』と諭されました。イタリアン、本当に自由ですね(笑)」
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。