働き方

市の補助金なしで黒字、神戸に「坂バス」を走らせるデザイナーのヤバい地元愛 (1/3ページ)

 自治体が運営する「公営バス」が赤字となることが多い中、補助金ゼロの「民間運営」にもかかわらず黒字を達成できたコミュニティバスがある。2013年に運行開始した神戸市灘区の路線バス「まやビューライン坂バス」だ。その発足と維持には“灘愛”に溢れた地元有名デザイナーや、地域活性化に打ち込む元商社マンのバス運行会社社長らの尽力があった--。

 「日本三大夜景」の山を愛する神戸市民が死守する「坂バス」の話

 「タンタンが乗っています」

 兵庫県神戸市のJR灘駅前は、大きなパンダのぬいぐるみを乗せたコミュニティバス「坂バス」の出発地だ。近隣の王子動物園(神戸市)にちなみ、車体には、パンダが乗っているというステッカーが貼られた愛らしさがトレードマークだ。

 灘駅と日本三大夜景で有名な摩耶山のふもとにある「摩耶ケーブル下」を結ぶ路線バス。通常、こうしたコミュニティバスは「地域住民の生活の足」を第一義とするものが多い中、この坂バスの当初の目的は別のところにあった。

 地元の自治体からも一目置かれる54歳デザイナーの正体

 「坂バスは、地元の人にもっと摩耶山(まやさん)へ行ってほしいという思いから生まれました」

 そう語るのは、神戸市灘区でまちの魅力を発信し続けるデザイナー、慈(うつみ)憲一さん(54歳)だ。大学進学時に、生まれ育った灘区を離れたが、1995年の阪神・淡路大震災を機に帰郷。

 本業の傍ら復興支援に携わり、灘区の歴史や地形、そこで暮らす人たちの魅力を伝える数々のイベントを手がけている。“灘愛”をテーマにしたフリーペーパー「naddism(ナディズム)」、メールマガジン「naddist(ナディスト)」を発行し、その溢れだす灘愛から、いつしか本人が「naddist」と呼ばれるようになる。 あまりにも灘区に詳しいことから、行政からも一目置かれている稀有な存在だ。

 山上へのケーブルカーとロープウェー廃止の危機に立ちあがった

 六甲山系に連なる摩耶山は標高702メートル。山上の掬星台(きくせいだい)からの眺めは日本三大夜景の名にふさわしい美しさがある。

 山上には1300年を超える歴史を持つ名刹「摩耶山天上寺」がある。この寺は、比叡山の延暦寺や高野山の金剛峯寺と並び称されている。

 山上へは、「まやビューライン」(ケーブルカーとロープウェーを乗り継いで十数分)で到着する。神戸市の一般財団法人「神戸すまいまちづくり公社」が運営していたが、2012年、設備の大規模修繕が必要な時期になり、まやビューライン廃止の話が持ち上がる。乗客が減少の一途をたどり、運行するほど赤字という状況だったのだ。

 その時、すかさず動いたのが慈さんだった。

 灘区の婦人会や子ども会、登山会などに声をかけ、「摩耶山再生会議」を結成した。自身が子どものころから裏庭感覚で親しんできた摩耶山を守りたいという思いだった。

 「再生会議では、ただ署名を集めるだけでなく、『提案書』をまとめて神戸市に提出しました。摩耶山へのアクセスラインを存続させてほしい、その代わりに、山上の活性化(山上での自然観察やヨガ、廃墟マニアに人気の「摩耶観光ホテルガイドツアー」などを企画)のために地元も汗を流します、という主旨と具体案です」

 面会した矢田立郎市長(当時)にもその熱意が伝わり、市役所では廃止の方向で進んでいた話が急転直下、存続となった。それまで観光客向けの利便交通としてとらえていた「まやビューライン」に、市民から親しまれている摩耶山への公共交通という位置づけを持たせ、市から一定の補助金を出すことになったのだ。補助金で賄えない分は、公社で負担するという取り決めになった。

 「半ば諦めていたので、僕たちも驚きました。こうなったからには腹を決めて、摩耶山上の活性化(イベント実施などによる集客)をやるぞと身が引き締まりました」

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