長寿企業大国ニッポンのいま

事業承継、実際は何から始める? 経営者と後継者を支える3つの厚いサポート (3/3ページ)

葛谷篤志
葛谷篤志

 2つ目は、後継者に対する「税金面の支援」です。企業の形式にもよりますが、事業を購入するということは、登録免許税や不動産取得税の課税など、会社の看板を買い取るだけではない部分での負担が発生いします。そのため、税金に関して、3つの猶予・優遇措置が講じられています。

「相続税・贈与税の納税猶予制度」

 1つは「相続税・贈与税の納税猶予制度」です。後継者が、非上場中小企業の株式等や事業用資産を先代経営者から相続・贈与により取得する際、都道府県知事の認可を受けると、相続税・贈与税の納税が猶予されます。中小企業による事業継続を通じた雇用の確保や、地域経済の活力維持を図る観点から経営承継円滑化法で定められています。

「登録免許税の軽減」「不動産取得税の軽減」

 残る2つの支援は「登録免許税の軽減」と「不動産取得税の軽減」です。

 第三者承継(「M&A」ともいえる)において、事業譲渡、株式譲渡で欠かせない「不動産の買い取り」の際に発生する登録免許税や不動産取得税を軽減するものです。

 登録免許税・不動産取得税の軽減は、2019年12月に経済産業省が策定した「第三者承継支援総合パッケージ」に組み込まれた施策で、具体的には下記のような軽減措置がとられています。

  • 登録免許税: 2.0%→0.4%
  • 不動産取得税: 不動産価格の6分の1に相当する額を課税標準から控除

 このように、後継者およびM&Aの買い手に対して、費用負担を軽減する措置が中小企業庁や経済産業省から出されているのです。

費用サポートを利用し印刷会社をM&A 経営者になった会社員

 実際、私がインタビューさせて頂いた後継者の中には、IT企業で長年働かれていた経験を生かし、セカンドキャリアとして地元の印刷会社の事業を譲り受けたという方がいます。

 80名ほどの企業の代表権を取得する際に、個人で一から購入しようとしても、株式を買い取ることができない場合が多くあります。個人で受けられる融資には限度もあります。印刷会社は当時、倉庫などの不動産を含めて、国の支援と金融機関の融資を受け株式を取得し、事業の再生を行っておりました。

 そこで後継者が利用したのが、前段でご紹介したような、国や自治体による費用面のサポートです。支援を受けることで実際に印刷会社の「2代目」として企業を引っ張る立場に転身しました。

 この第三者承継支援総合パッケージは、M&A仲介を推進するように思われるケースもありますが、実際は、個人での事業の譲り受けを可能になります。日本の老舗企業の存続のための一つのあり方として是非参考にしてみて下さい。

経営者と後継者、それぞれに踏み出してほしい「一歩」

 今回は、事業承継を知る機会を得られる身近なセミナーから、国による実際の費用負担面のサポートまで書かせていただきました。経産省は、第三者承継支援総合パッケージを通じて、2020年からの10年間で、60万者の第三者への承継実現を目標としています。国は、残り9年間で、長期的に事業の引き継ぎを推し進めていこうとしているのです。

 経営者の皆様は、まずはご自身の事業ををいつバトンタッチを行うかを考えてみること。後継者の皆様は、引き継ぐ予定の事業をより深く知ることからスタートし、今だから得られる、国からの支援を受けてみてはいかがでしょうか。

参考

*事業承継計画の作成

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/q18.htm

*埼玉県事業引継ぎ支援センター

http://www.saitamacci.or.jp/management/handing.asp

*経営承継円滑化法

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm

*第三者承継支援総合パッケージ

https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191220012/20191220012.html

葛谷篤志(くずや・あつし)
葛谷篤志(くずや・あつし) 事業承継士
一般社団法人 事業承継協会埼玉支部 理事
ウェブマーケティング企業での業務を通じて地方企業の後継者不足を目の当たりにしたことをきかっけに、自身で「事業承継士」の資格を取得。自身が運営するWEBマガジン「事業承継ラボ」では、後継者の経営革新・経営改善に関する情報を配信。国内のより良い企業の、継続・存続を支援する。

【長寿企業大国ニッポンのいま】は、「大廃業時代」の到来が危惧される日本において、中小企業がこれまで育ててきた事業や技術を次の世代にスムーズにつなぐための知識やノウハウを、事業承継士の葛谷篤志氏が解説する「事業承継」コラムです。アーカイブはこちら

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