国が今課題を抱える「事業承継」について解説する連載コラムの第4回は、家族承継を前提にして、事業を引き継ぐ後継者向けに「事業承継計画表の作成方法」を解説いたします。
「事業承継計画表」とネットで検索すると、中小企業庁をはじめ多くのWebサイトでは、作成方法が「事業を譲渡したい経営者」に向けて書かれています。ところが、「事業を引き継ぐ予定の後継者」の中にも、計画表を作っている人は多いのです。
事実、事業承継士として商工会議所などで事業承継計画表の作成方法のセミナーやワークを行ってきましたが、参加いただく方の約4割が後継者候補でした。
先代であるお父様から、幼い頃から会社を引き継ぐように言われている場合や、言われてはないものの引き継ぐんだろうと思っているケースなど、置かれている状況はさまざまです。しかし、参加者の方々に話を伺ってみると、「父がどのような思いで事業を行ってきたのかがわかった」「事業を引き継ぐ覚悟ができた」など、事業承継計画表の作成を通じて、お父様の事業に対して前向きに考えられるようになった方も多いようです。
これまでの経験から、事業承継計画表は後継者と経営者の双方でそれぞれに作ったほうがいいと考えています。ただ経営者が必要とするアドバイスはネット上に溢れていますので、今回、あえて後継者や後継者候補の方々へのアドバイスにフォーカスします。
改めて「事業承継計画表」とは何か
第1回でも記載しましたが、「事業承継計画表」とは、中小企業庁が発行する「事業承継」を行うための10カ年計画表です。事業計画として売上高・経常利益の長期的見立てを記入し、経営者の年齢、持株比率を数字上で見える化することで、実際にいつ頃会社を譲り渡そうと考えているかを捉えるためのツールです。
また、後継者としては役職をどのように変えていくか、実際の会社の実務をどのように経験していくかなども記入することができるため、会社について長期的に考えることが可能となります。
10カ年の計画の中では予定していたものが変わるということはよくあることですが、計画を立てることで、経営者と後継者候補にとって事業承継が急に現実味を帯びてきます。
後継者が「事業承継計画表」を作成することのメリット
事業承継計画表を、経営者に加えて、事業承継を予定している後継者が作成することのメリットは複数あります。
メリット
- 後継者の企業理解が深まり事業承継後もスムーズに事業が運営できる
- 後継者の事業承継への覚悟が固まり、経営者に想いが伝わる
- 実際に経営者がどのような歴史を経て、会社を発展させたのかを知るきっかけになる
- 会社の構造や、株式の割合などを知ることができる
- 後継者が事業を引き継ぐ上で、自分自身に足りないものがわかる
このように、後継者が計画表を作ることは様々な点で有効な手段であるといえます。