働き方ラボ

ビジネスパーソンにとっての「帰省」とは? コロナ禍に考える親の「終活」支援 (2/2ページ)

常見陽平
常見陽平

 この連載の読者も、年齢層が様々だろう。中にはもう保護者が他界している人もいるかもしれない。存命の場合、保護者がいま、どのような生活を送っているのか、これからどうしたいのかを一緒に考えたいところだ。

 スマホがあれば、日々メッセージのやり取りもできるし、ビデオ通話だってできるが、家族の衰えは帰省して一緒に過ごしてみることによって気づくものが多い。健康のシグナルを発見しやすく、保護者の現状を確認できる。

 その際にいつまで今の実家に住むか、老後のやりたいことなども確認しておきたい。資産がある場合は、生前贈与などの具体的な話をするのもいいだろう。不要なものの処分も、もし保護者が納得するなら、今のうちにすすめておきたい(なかなか納得せず、気づけばトラック数台分になっているというのも、よくある話なのだが)。

 「終活」は保護者にとっても、自分にとっても決して気持ちのよくないものである。しかし、現実的な問題として取り組まなくてはならない。以前と比べて健康な高齢者が増えてはいるものの、人は老いからは逃れることができない。帰省する機会があれば、「終活」に今のうちに取り組んでおきたい。

 いつ地元に戻るのか問題

 新型コロナウイルス・ショックによりテレワークが普及したことで、転勤を廃止する動きや、日本全国どこでも勤務することができる制度を導入する企業も現れた。これにより、移住が進むという予測もある。

 メディアでは、東京での通勤や狭いマンション暮らしから解放され、縁もゆかりもない地方に移住し、自然に囲まれながらテレワークをするビジネスパーソンが紹介される。このような光景をみて、憧れる人もいることだろう。そんな生き方を否定するわけではない。「地方は閉鎖的だ」とよく言われるが、実際は地方自治体も移住者を求めているし、自治体によっては移住者コミュニティも生まれている。

 ただ、ビジネスパーソンの現実としては、「いつ、実家に戻るのか」というのが切実な問題ではないか。前述した「終活」とも関連し、保護者の介護や、家業を継ぐために実家に戻らざるを得ないことだってある。育児環境をどうするかという問題もあるだろう。

 このために、帰省はUIターンの視察会だと捉えたい。進学、就職に合わせて実家を出た人は、面白 いくらいに地元のビジネス事情も、美味しい飲食店のことも知らない。帰省は、将来のUIターンに向けたリサーチの場だと捉えよう。

 地元のメディアをチェックする、友人・知人と連絡をとる、自治体のUIターン支援施策を確認するなど、情報収集に努めよう。保護者と具体的に戻る時期について議論するという手もある。UIターンだけでなく、保護者を今の居住地に呼ぶこともできるかもしれない。具体的に検討しよう。

 帰省とは、自己分析の時間でもある。久々に帰った地元、実家で過ごしてみると、自分が何を大切に生きてきたのか、実家を出てからどれだけ成長できたのかを確認できたりもする。懐かしいグローブも、ホコリをかぶったギターも、すべては生きてきた証である。

 ここまで書いていて何だが、今年は帰省を自粛せざるを得ない人も多いことだろう。感染症対策の上でも、医療崩壊を防ぐためにもやむを得ない。ただ、帰省とは単に実家でゆっくりするだけでなく、それ以上の意味があるということを確認しておきたい。

常見陽平(つねみ・ようへい)
常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら。その他、YouTubeチャンネル「常見陽平」も随時更新中。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus