ビジネストラブル撃退道

発表前の新車をTwitterで公開…広告代理店・若手社員の“大失態”に学ぶこと (2/2ページ)

中川淳一郎
中川淳一郎

 そりゃあまだ世の中に出ていない新車の試乗会に参加したら興奮してその写真をSNSに公開したくもなるでしょう。しかし、本当に新車というものは自動車会社にとっては、社運を賭けたものであることが多いのです。なんとしてもそのデザインや性能は一切外に出すわけにはいかない。ライバル企業のスパイだって、その新車の情報は喉から手が出るほど欲しいもの。それほどまでに大事な情報を、あろうことか広告代理店の若手社員がSNSに公開してしまったのです。

 企業のSNS炎上への対処法

 これは確かに大問題ではありますし、当然役員は血相を変えて自動車会社に謝罪に行きましたし、出入り禁止の危機もあったと聞きます。数十億円の売り上げを吹っ飛ばす可能性もあったこの情報流出騒動ですが、この騒動の副産物として社内ではSNSの公開について、厳密なルールが設定されました。

 一人の若い社員の大失敗により、その後の同社内におけるコンプライアンス意識は相当高まったのです。大きな売り上げが失われる可能性はあったものの、長期的視点で見れば、ここで痛い目に遭って良かった、という解釈もできます。何しろ、なんとかクライアント企業には許してもらえたのですから。

 朝日新聞社をはじめとし、社員がSNSで発信する企業は数多くあれど、必ずと言っていいほど時々誰かが炎上します。この状態を回避するには、社員にSNS利用を禁止する、という手もあります。しかし、SNSはうまく使えば商品のPRやブランドイメージの向上につながります。

 一度失敗する社員が登場することにより、社内のコンプライアンス意識と危機感が高まることは悪いことではありません。また、失敗をやらかしてしまった場合のリカバリーのやり方によっては、逆に評価を高めることもあります。

 もちろん炎上は良いことではありませんが、社員の軽率な投稿については、その社員が「たまたま」その第一号になってしまっただけとも捉えられます。私は前出の広告代理店がその後、気を引き締めたことを知っているため、ミスをしてしまった若手社員は「いつかミスをする誰か」の第一号になっただけなのかな、とも思っています。

 ミスをしてしまった場合は関係者に謝罪をし、あとは社内教育を徹底する。それが非常に重要です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

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