【CAのここだけの話♪】若くて独身はひと昔前!? CAママの理想的で最高の「働き方」

2019.5.13 07:05

 SankeiBiz読者のみなさんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第52回は欧州系航空会社で日本人CA として乗務15年目の鶴﨑八千代がお送りいたします。

もう「若く」はない!?

 みなさま、CAと聞くとどんなイメージをお持ちですか? 若くて独身、背が高くて、綺麗で…。ステレオタイプながら、そんなイメ-ジを持っている方が多いかもしれませんね。

 もちろん、みなさんのイメージにドンピシャのCAも存在しますが、昔に比べて現在のCAはご存知の通り、けっして若くない(笑) 「既婚CA」もかなり存在します。1990年代後半までは年齢制限があったり、独身だけを対象にした採用もありました。不規則なフライトスケジュ-ルから、独身の間のみ勤めた人、結婚や妊娠を機に退職した人も多いでしょう。いまでは考えられないですがそんな時代もありました。

育児もこなす「CAママ」もけっこういます!

 「若くて独身」はひと昔前。現在は、時代の流れや会社の方針、社内規約などが変わり、女性が子育てしながらも働き続けやすくなってきました。子育てしながらCAとして乗務生活を続ける「CAママ」も増えてきました。

 私もCAママのひとりです。10歳の息子と6歳の娘がいます。フランスの航空会社で、パリをベースに勤務して14年。フランス在住歴も15年になりました。子供を現地の学校に通わせながら育児と乗務の両立をしています。子育てとハードなフライトスケジュールをどんなふうにこなしているのか。今回は、フランスの航空会社で乗務するCAママの働き方についてシェアしたいと思います。

数日にわたり家を空ける生活 現実はなかなか…

 CAママが増えてきたとお話ししましたが、出産後もCAを続けることはなかなかハードルが高いのも事実です。一般企業にお勤めされているワーキングマザーと比べて、CAはやはり時間的に不規則な仕事です。国際線の場合は家を数日間空けることになります。産休・育休取得後に現場復帰した後、乗務生活を続けてみるものの、子育てとの両立の難しさに直面します。パートナーの理解が得られないケースも多々ありますし、ママ自身も小さい子供をおいて家を空けることに罪悪感を覚えてしまうこともあります。

 単純に考えて、数日間家を空ける生活を続けることそのものがとても大変です。実家や義理の両親などのサポートなしに継続は難しいかもしれません。CAママの中には、ベビーシッターなどを駆使して必死に乗務を続けている人もいますが、泣く泣く退職している人も多いのではないでしょうか。

転職の決め手はコレでした

 CAママの育休制度は航空会社によりかなり違うようです。幸い、私が勤めているフランスの航空会社では、かなり手厚い制度が整えられています。実は、私は育児休暇(育休)制度に惹かれて現在の会社に転職しました。それまでは6年間ほどアメリカ系航空会社に機内通訳として乗務していたのです。

 フランスの出生率がヨーロッパの国々の中でも高いのは有名ですね。その理由のひとつは、育休システムにあります。(このほか、子供が多い家族には税制控除など優遇システムなどもあります。)フランスの法律では育休は一般的に3年間です。最低3年間であって、会社によってはさらに長期の育休が取れます。

 私の勤務先ではなんと、4年間の育休が取れます! 経営難で人員削減していた時期には5年間という制度もありました。1人目を出産後に4年間休み、その間に2人目を妊娠した場合は引き続き4年間…つまりトータルで8年間休むことも可能なのです。「8年も休んだら復帰がなかなか大変では?」という気もしますが、実際に長年休んだ後に子供が大きくなってから復帰された先輩CAもいらっしゃいます。

 とはいっても、フランス人CAでこのような長い育休を取る人はかなり少ないです。復帰するには、保安要員として乗務するための研修・試験に通過しなければならないからです。すべてフランス語での試験です。フランスで育休を取得しフランス語ベースの生活をしているCAにとっては苦になりませんが、例えば日本で生活をしているCAにとっては、語学のハードルも高くなります。疑問に思った方もいらっしゃるかもしれませんが、私の勤める航空会社の場合、基本的にはどこに住んでも構わないのです。かなり大変ではありますが、日本在住のまま、あるいはアメリカや他のヨーロッパの国で生活しながら、パリのシャルル・ド・ゴール空港まで通勤しているCAもかなりいます。

ママがCAを続けやすい 魅力的なシステムはほかにも

 4年間の育休はCAママにとってはたしかにありがたいです。でも、ずっと休職するという選択肢のほかにも2つ、こんなうれしいシステムもあります。

<1>「交互に」働く

 「TA(Le temps alterne)」と呼ばれるシステムです。子供が4歳にまるまでは、申請すれば必ず承認されるシステムです。

 具体的に言うと、通常フルタイムで仕事するのを100%とすると、その割合を減らすことができます。私も実際に息子を出産後、半年ほどで復帰しましたが、その時にお願いしたのが50%でした。「一定期間働いて、一定期間休む」を繰り返します。つまり「2カ月働いて2カ月休む」か「1カ月働いて1カ月休む」。そういうリズムで乗務できます。

 完全に休職はしたくないけど仕事の量を減らせる。これはとても魅力的です。CAには、仕事が好き、接客が好き、人が好き…そういう性格の人が多いようです。世界中を飛び回る乗務生活から、一気に子育てに専念するための生活へ。世界のさまざまな方々と接する生活から、家を中心とした限定された生活へ。育休中のCAママの中には、そうした極端な変化や、子育ての独特の生活リズムに戸惑い、世界や一般社会から孤立してしまう感覚に陥る人も多いようです。そのため、完全休職よりも50%だけ復帰して、その後、徐々にパーセンテージを上げて育児と乗務とのバランスを取っていくシステムは、CAママ本人はもちろん、子供やパートナーにとっても、新しいリズムに少しずつ慣れていくことができるのでメリットがあります。

<2>「分割して」働く

 2つ目のシステムは「TAF (le temps alterne fractionne)」です。私が出産した時にはなかったのですが、毎月7日間もしくは10日間を無給休暇にするというものです。

 この制度により、通常はひと月に3本組まれていた「日本-フランス」の往復フライトスケジュールが月2本になり、月の仕事はそれで完了します。日本-フランス間でいうと、1回のフライトスケジュールは4日間(日本滞在2泊+フランスにリターン)なので、毎月の実労働が8日(4日×2本)で済みます。

 これなら子供が小さくても、留守中、パートナーもなんとか家のことをカバーできそうですよね。フランスでは通常、働くママの代わりにヌヌと呼ばれるベビーシッターを雇います。(日本と同じで託児所は“狭き門”。)雇用主はシッターと一定期間契約し、シッターに毎月の給料を支払います。CAママのほとんどは、毎月一定額の金額をシッターに払うように契約をしています。乗務のない月でもシッターへの給料支払いの必要があるため、収入がないと赤字になるのです。その点でも、毎月一定額の収入があるTAFというシステムはCAママには好都合なのです。

 また、1~2カ月完全にお休みした直後の乗務はとても緊張もするものです。個人的には、毎回、ひと月ぶりのフライトを控えた前夜は、変な緊張感からかあまり眠れなかったり、スーツケースの準備も通常より時間がかかったりしていました。

ところで、妊婦のCAって乗務できるの?

 みなさん、お腹の大きいCAのいる便にご搭乗されたことはありますか? これまで出産後のお話をしてきましたが、妊娠中のCAについても少し触れたいと思います。数年前、日系の航空会社に勤務していた妊娠中のCAをめぐる「マタニティハラスメント」訴訟が話題になりました。妊娠判明後に地上勤務を申請したものの、地上職に空きがなかったことから、無給休職を強いられたのです。

 会社によりますが、私が勤めるフランスの会社では、会社側に妊娠の事実を伝えると、すぐにフライトスケジュールすべてがキャンセルになります。そこで、地上で働くか、休職するか選択肢が与えられます。私の場合、1人目の妊娠中は人事セクションに勤務、2人目は休職を選択しました。アメリカの会社は比較的柔軟で、妊娠を報告後も乗務継続ができるようです。会社により「妊娠〇週目まで」と決まっています。以前勤めていたアメリカの会社では、たしかに妊婦のCAと働いたことがありました。少しお腹が目立ってきたかなという大きさでした。さすがに、お腹が大きくなる妊娠後期のCAはどの航空会社でも存在しません。

◇◆◇

 今回は、CAという仕事が結婚・出産後も継続可能であり、実際に育児とフライトとのバランスをとりながら働いているCAママが存在することをシェアしたくて書いてみました。

 年齢を重ねてはいても、子育てしながら働くことにより、お子様連れのお客様に寄り添い、きめ細やかなサービスができると自負しております。赤ちゃん連れのお客様が抱く子連れ旅行の不安、そうした方々が求めるサービスなどは経験して初めてわかります。独身時代の仕事ぶりを振り返ると、いかにお客様の気持ち、希望に沿ったサービスができていなかったか…反省しかありません。妊娠、出産、育児の経験は、仕事にもプラスになります。そう思うと、年を重ねてもなおCAを継続することも悪くないと思います。また会社にも大きなメリットがあります。みなさまが思い描く若いCAではありませんが、「おばちゃんCA」も悪くないかも?!(笑)と思っていただけたら幸いです。

36393

鶴﨑八千代(つるさき・やちよ)

鹿児島県出身。2004年ワーホリビザを取得し単身渡仏。パリの5つ星ホテルに勤務後、フランスの航空会社に転職。社会人経験24年。日本では営業、貿易事務、海外買い付け業務なども経験。20代に2度の解雇を経験するなど紆余曲折を経て、5回目の転職で最高のワークライフバランスと理想のライフスタイルを実現。フランスで「キャリア&ライフアドバイザー」として起業2年目。オンラインをメインに相談受付・サポートを提供中。パリおよびパリ近郊生活を経て、2019年より10歳年下のフランス人パートナーと子供2人とともにノルマンディ地方での田舎暮らしを開始。

【CAのここだけの話♪】はエアソルに登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。>アーカイブはこちら

閉じる