政府目標の早期時給1000円 最低賃金上げ、経済界に賛否

2019.7.22 05:48

 最低賃金の引き上げをめぐる議論が厚生労働省の審議会で労使が参加して始まった。政府は現在全国平均874円の時給を早期に1000円まで引き上げる目標を掲げたが、経済界では賛否が分かれる。引き上げに慎重な日本商工会議所の三村明夫会頭(78)と、年率5%の大幅な引き上げを提言するサントリーホールディングスの新浪剛史社長(60)に意見を聞いた。

 □日本商工会議所・三村明夫会頭

 --5月の政府への要望で最低賃金の数値目標引き上げに強く反対した

 「この3年間は政府目標に沿って3%ずつ上昇してきた。審議会は総合的に勘案して結論を出したとしているが根拠は明示されていない。目標ありきの引き上げ議論はやめてほしい。最低賃金は法的強制力のある制度だ。政策実現の道具として使うべきではない」

 --中小企業の現状は

 「人手不足で余裕がないのに賃上げする企業が増えている。人件費の増加は設備投資の抑制などでしのいでいる。最低賃金の引き上げを生産性向上につなげようという考え方もあるが、経営効率化には時間がかかる。最低賃金はすぐに上げる必要があるため、倒産や廃業の増加を引き起こすだけだ。さらに下請けが多い中小企業はコスト上昇分を価格転嫁しにくい事情がある。取引価格の適正化も課題だ」

 --消費拡大効果を期待する声もあるが

 「女性や高齢者など働く人が増え、全体の賃金は増えているはずなのに、消費に回らず貯蓄に向かっている。アベノミクスで足元の安心は確保できたが、社会保障制度など将来への不安があるためだ。消費拡大には他にやることがあるはずだ」

【プロフィル】三村明夫

 みむら・あきお 1940年前橋市生まれ。東大卒。新日本製鉄(現日本製鉄)社長、会長などを経て、2013年から現職。

 □サントリーホールディングス・新浪剛史社長

 --民間議員を務める政府の経済財政諮問会議で5月、最低賃金の大幅な引き上げを訴えた

 「東京五輪・パラリンピック後の2021年までに全国平均1000円達成のために今後3年間で平均5%ずつの引き上げが必要だ。最低賃金は政府目標であるデフレ脱却のための重要なツール。従来の政府の賃上げ策は大企業を中心に協力要請でしかなかったが(法的強制力がある)最低賃金は強い政策になる」

 --実績を上回る数値目標に反発があった

 「現在の全国平均874円の時給は国際的にみても低い水準だ。引き上げの余地はある。人件費の増加が経営の圧迫に直結する背景には日本企業の生産性の低さがある。最低賃金の引き上げ議論をきっかけに非効率な経営からの脱却を促すべきだ」

 --余力のない中小企業は急ピッチの引き上げに耐えられない

 「生産性が低いままでは、じり貧の状態に変わりない。ITのノウハウが足りない中小企業には、行政などが伴走型の支援を提供しなければならない。経営支援のための政府の補助金は使い勝手が悪いため、要件の緩和も重要だ」

【プロフィル】新浪剛史

 にいなみ・たけし 1959年横浜市生まれ。ハーバード大学経営大学院修了。ローソン社長、会長などを経て2014年から現職。

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