【東京商工リサーチ特別レポート】業者倒産で工事が中断した「有明テニスの森」の今 五輪に間に合うのか

2019.8.31 09:00

 東京五輪・パラリンピックのテニス会場となる「有明テニスの森」(江東区)。2018年10月に工事を請け負った会社が倒産し、工事の一部が中断した。前代未聞の事態だったが、今、「テニスの聖地」と呼ばれる会場の工事はどうなっているか。東京商工リサーチ情報部が取材した。

 現場では、完成後のテニス会場のイメージ図を眺める2人の女性がテニス談義で話が弾んでいた。会場の工事を引き継いだ会社が猛暑の中、奮闘。工事は追い込み段階で、今年9月開催の国際大会「楽天オープン」には間に合う予定だ。

 創業者が役員退任後も取締役会を仕切る乱脈経営

 当初工事を受注したのは、エム・テック(さいたま市)だった。同社は事業の急拡大で管理体制が疎かになり、昨年10月1日東京地裁に民事再生法の適用を申請し、11月に破産へ移行した。

 エム・テックの債権者集会が今年7月3日、東京都港区で開催された。元従業員や債権者など100人以上が出席。出席者や関係筋によると、破産管財人の説明では、エム・テックは創業者であるA氏がほとんどすべての期間において専断的に経営してきた。A氏は2015年9月に代表取締役を退任し、2016年3月には取締役からも退いたが、その後も「社主」や「オーナー」などと称して取締役会を主宰していた。

 人事権や従業員の処遇、役員報酬などの事実上の決定権を持っていた。

 決算内容は、対外的に公表してきた決算書は少なくとも2009年7月期以降は最終黒字、かつ資産超過となっているが、これは不適切な会計処理の結果だ。実際には2018年7月期のかなり前から債務超過の状態が続いていたとみられる。

 エム・テックは、2013年7月期から工事収益の計上を進行基準に移行したが、その後も貸借対照表に未成工事支出金や完成工事未収入金を過大計上していた。

 エム・テックは売上至上主義による管理体制の不備や身の丈を超えた重機などへの投資から、資金繰りが悪化。これを取り繕うために、下請けなど協力業者への支払いを意図的に遅らせていた。難癖をつけて不当に工事代金の減額を要求することも少なくなかった。

 また、公共工事の前払い制度(請負額の4~5割)を利用し、前払金を日常の運転資金に流用していた。前払金を受け取った後、関係会社に工事を発注した外形を整えて支払い、それをエム・テックに還流させていた。

 エム・テックは、港湾工事の延長許可申請漏れや許可条件違反の工事実施などで、港則法違反で起訴され、2018年5~9月まで地方自治体等からの入札資格が停止された。これにより、資金繰りの拠り所としていた工事前払金を受けられなくなり、資金繰りが急速に悪化した。

 工事会社の倒産を乗り越え、工事は最終盤へ

 「有明テニスの森」の工事の完成予定期日は2019年7月だったが、エム・テックの倒産で工事が中断した。テニス会場の一部では、今年9月に国際大会「楽天オープン」、10月には「三菱 全日本選手権」が控えていただけに、何としても完成が急がれていた。

 倒産から3カ月間の中断を経て、東京都は今年1月、改めて2社に残り工事を発注した。

 新たな受注業者は、施設工事が関東建設工業(群馬県太田市)、電気工事が栗原工業(大阪市北区)の中堅会社だった。

 関東建設工業と栗原工業は、隣の「有明コロシアム」の改修工事も共同企業体(JV)で請け負っていた。「有明コロシアム」の工事は今年7月に完成。その一部施設は「11月7日から一般利用を再開する」(東京都の担当者)という。

 一方、中断していた「有明テニスの森」の工事は、9月28日開催予定の「楽天オープン」に備え、利用スペースを先行して工事を進め、大会には間に合うようだ。全体工事も五輪前の2020年3月までに完成を見込んでいる。

 日本選手が五輪で活躍する舞台に、水を差しかねない状況だっただけに、都の担当者は「関係者が一致団結して頑張っている」と安どの声を漏らした。

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東京商工リサーチ(とうきょうしょうこうりさーち)

images/profile/tokyosyoko_resarch.jpg 民間信用調査機関 1892年創業。日本を代表する大手民間信用調査機関。民間信用調査機関として110余年のキャリアを持ち、日本の経済、企業トレンドを見つめながら、ダンアンドブラッドストリートをはじめとする各国の調査会社とのパートナーシップも駆使し、3億件を超える国内・海外の企業情報を提供。企業間取引に欠かせない与信管理を支援している。日本で初めて「倒産」の言葉を定義づけた会社としても知られる。

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