【社長を目指す方程式】デキる上司は「WILL・CAN・MUST」を駆使して最強チームを作る

2019.9.30 07:00

 こんにちは、経営者JPの井上です。今やメジャーな「三つの輪」。「やりたいこと(WILL)」「できること(CAN)」「なすべきこと(MUST)」の3つの重なる部分に適職、天職がある、と。私がリクルート社に新卒入社し人事部門に配属され、一番最初に教わったフレームワークが「三つの輪」と「ジョハリの窓」でした(「ジョハリの窓」についてもこの連載でいつかご紹介してみたいと思います)。

 その当時はまだありませんでしたが、その後リクルートでは「Will Can Mustシート(WCMシート)」という目標管理シートが導入され従業員のキャリア開発支援の基盤となっています。

 メンバーは半期に一度「WCMシート」を記入し、自身が仕事を通じて実現したいこと(Will)を明らかにして上長とすり合わせ、その実現のために何ができるか、どのようなことができるようになる必要があるか(Can)を確認した上で、何をすべきか(Must)を考えます。いわゆるMBO(Management By Objective、目標管理制度)ですが、個々人が自己目標をキャリア開発視点で設定し業務に臨む。また上長や部門では、所属メンバー達のWCMシートを元に配属やキャリアパスなども検討していきます。

 このサイクルを半年タームで回し続けることを徹底しているところにもリクルートの人材力の強さがあると思います。皆さんの会社でも、半期や通期の目標管理制度を導入していらっしゃるなら「WCMシート」を組み込むことはさほど難しいことではありませんのでトライしてみても良いでしょう。ただ、大事なのは導入ではなく運用です。WILL・CAN・MUSTの棚卸しとすり合わせ、共有、実行のサイクルをしっかり回し続けることが大事なのです。

 そして今回は、この「三つの輪」を読者の皆さんが上司の立場から、部下に対してやチーム編成・運営でどう有効活用できるかについての、日常での活用法をご紹介してみたいと思います。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「三つの輪」

 「WILL」については「提供する・提案する」

 まず明確にしたいのが、「やりたいこと(WILL)」です。皆さんは部下に、常に問うていますでしょうか?「今、自分の仕事をどうしたい?」「次の半年、1年で挑戦したいことは何?」「将来的にやってみたいこと、達成したいことは何だろう?」「夢は?!」。

 WILLには短期的なものと中長期的なものとがあります。この両方をしっかり考えさせ、アウトプットさせることが望ましいのです(そもそも上司であるあなた自身が、ご自身の短期と中長期のWILLを語れないといけませんね)。

 なぜこれが第一かというと、まず大前提として個々人それぞれのWILLがあり、それを組織として大事にしているんだよという宣言が、部下たちの主体性を養い、仕事への情熱(モチベーション)やコミットメントを高めることになるからです。一人ひとりのWILLを大切にし、活かしながらのMUST~組織・会社がやって欲しいことなのだ、と。

 逆に、一般的には往往にしてMUSTありき、「これをやりなさい」が第一での業務割り当てであり業務命令になりがちです。これが当人のやる気、意欲を削いでいるということが多いですね。

 やりたいこと=志向ですから、部下当人の志向は職場側が提供、実現してあげるものなのです。あるいは若手新人や、成長の段階を迎えたメンバーに対しては、「そんなきみなら、次はこんなことをテーマにしてみたら?」と提案してあげるものでもありますね。

採用時においては、WILL=志向を満たせる場が自社に存在していることを伝えることこそが口説きポイントになる訳です。

 あなたは自分の部下たちのWILLを可能な限り満たしてあげるような職務割り当てをしているでしょうか? そもそも、自分の部下たちの短期と中長期のWILLをご存知ですか?

今回の社長を目指す法則・方程式:

「三つの輪」

 「CAN」については「見極める・開発する」

 次に、「できること(CAN)」についてです。これは上司の皆さんは、執拗に(笑)部下の力量を見定めていらっしゃることと思います。ただ、2つ問題が内在していることが多いです。

 一つは、上司の勝手解釈や偏見が入っていることが少なくないこと。「あいつは、これくらいの力量だ」「彼はこれは得意だが、あれは苦手だ」。もちろん上司として正確に、客観的に観れていることは多いと思いますが、もしかしたらこちらの主観や偏った評価をしているかもしれないという気持ちは捨ててはいけませんよね。

 もう一つは、本人の自覚と他者評価がズレていることはかなり多いということ。「自分はこれができます」を上司のあなたが聞き、「ええ?」と驚くこともあるでしょう。上司としては100できて<できる>なのに、当人は50で十分と思っている、「もう少し<できる>の水準をあげようよ…」など。

 このためにもWCMシートのような形でしっかりと、自己評価を棚卸ししてもらい言語化させ、すり合わせることが大事なのです。

 リクルートのWCMシートでは、CANについては「活かしたい強み」と共に「克服したい課題」も挙げることになっています。そしてその克服したい課題をクリアするための能力開発テーマを決め具体的な行動計画を立てます(それを半期で達成しにいきます)。

 CANというと今できること(だけ)を見がちですが、人材開発視点で本人が「これから何ができるようになっていきたいか」と上司から見て「これから何ができるようになっていって欲しいか」を接合させることこそ、非常に重要です。

 CAN=能力・スキル・専門性は、一つには上司として会社としてしっかり当人のCANを確認し見極めるべきものであり、かつ、今後に向けて開発していけるようセットアップしてあげるべきものなのです。

 またCANは、採用時にはしっかりアセスメントし、エントリーマネジメントすべきものです。パーフェクトな状態である必要はない(パーフェクトな状態の人材を採用できるケースは稀である)ものの、わが社が必要とする人材要件としてのベースのCANを満たしていない人を採用してしまったら、入社後にいくらCANを伸ばそうとしても難しい。採用の失敗は教育では取り返せない、のです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「三つの輪」

 「MUST」については「整理する・伝える」

 最後に「なすべきこと(MUST)」。これはシンプルに、やって欲しいことを整理し、当人に伝える。どの上司も、どの職場、企業でも当たり前のようにやっていること(なはず)です。

 で、今回のメインイベントとしては、WILLとCANをMUSTと接合させることこそが、この三つの輪の要諦な訳です。上司のあなたの、組織リーダーとしてのもっともやりがいある面白いところこそ、ここにあると私は思っています。

 メンバーたちそれぞれのWILLとCANをMUSTに接合させにいく。そのために組織・チーム全体を俯瞰してみてリソース・アロケーションを試みる、適所適材を図る。このパズルゲームを常に目配せし、やりくり試行錯誤し、成果が出るチームをなんとか構築する。組織リーダーの仕事とは、最適(最強)チーム編成ゲームだと言えると思います。一度編成し完成をみたらそれで完了、とはならないのがまたミソです。常にモニタリングしつつチューニングし続ける、終わりなきゲームでもあります。

 これをなんとか巧く成り立たせるためには、個々のメンバーのWILL・CANの把握と共に、組織・チーム全体のMUST=ミッションやビジョンの明確化、共有浸透が鍵を握っています。言い方を変えれば、MUSTの意味づけ・価値づけですね。組織リーダーである皆さんに問われるのは、我が組織・チームでなすべきことの意味づけ・価値づけ力なのです。

 ちなみに2019.5.13掲載回の「偉大な企業を創った経営者たちが絶対に妥協しない『3つの円』とは」でご紹介しましたが、『ビジョナリー・カンパニー』では個人→企業への適用で、「WILL」=「情熱をもって取り組めるもの」、「CAN」=「自分が世界一になれる部分」、「MUST」=「経済的原動力になるもの」としています。「三つの輪」は個人のマネジメントとしても、企業・組織のマネジメントとしても、社長を目指す上司の皆さんが使えるフレームです。ぜひ実践活用してみてください。

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井上和幸(いのうえ・かずゆき)

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株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO

1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
経営者JPが運営する会員制プラットフォームKEIEISHA TERRACEのサイトはこちら。

【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら

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