【ビジネストラブル撃退道】客の荷物を勝手に捨てた“トンデモ宿”騒動に見る「常識的であれ」の重要性

2019.10.23 07:00

 とあるビジネスホテルが客の預けた段ボール箱入りのガレージキット(組み立て式模型)をゴミだと思って捨て、それらが破損していたことを客からツイッターで暴露された。まったくもってして意味の分からない対応だ。客はキャリーバッグの上に段ボールを乗せ、テープで固定させていた。ホテルの対応で意味が分からないのが、以下3点である。

なぜ勝手に開ける?

なぜ勝手にゴミだと解釈する?

なぜ、その勝手な解釈を基に捨ててもいいと思うのか?

 今回、客の男性はこの顛末をツイッターで明かすとともに、ホテル側との会話も録音していると報告。9月6日のツイートだったが、10月19日にJ-CASTニュースに報じられ、Yahooニュースでも「国内」カテゴリーでアクセスランキング1位になるなどした。

 最近、自分自身常に意識しているのが、「とにかくアホなことや非常識なことはするな」ということである。それは普段の生活でもそうだし、ビジネス上でもそうだ。いや、特にビジネスの場ではそれを強く意識している。

 今の時代、非常識な対応をした場合、すべてネット上に明かされ、炎上し、挙句の果てには廃業に追い込まれる可能性がある。いや、非常識ではなくても一部分を切り取られてその部分が公開されて非常識扱いされ炎上する可能性はある。たとえばこんなシチュエーションを考えてみよう。

狭い道を全部塞ぐ形で5人が横一列に並んでデレデレと歩いている

後ろの人々は追い越すことができない

その中で、荷物を持った配送業者の男性がイライラしながら強引に割って入る

5人のうちの一人が「痛い、痛い!」と騒ぎ、「謝ってくださいよ!」と言う

配送業者は「お前ら邪魔なんだよ、道を塞いでおいて何言ってるんだよ。そっちが悪いだろ。謝る必要はないだろ?」と言う。

 さて、この状況で、【3】の中で割って入られた2人の部分だけを撮影し、【4】の部分と【5】の「道を塞いでおいて何言ってるんだよ」部分を削除して20秒ほどの動画を作りネットに公開してしまえば「【驚愕!】凶悪暴力〇〇(運送業者名)、いたいけな若者にタックル&暴言、傷害罪か」という動画を作ることができる。

 5人が通行の邪魔をしている場面がない場合は、完全に配送業者が悪者になるような展開だ。これに対し、反論するのもいいが、そもそも「他人にはかかわらない」「言葉遣いは常に丁寧に」ということを心がけなければ身は守れない。

 電車で席に座っている時に大股開きの隣の客を注意した場合、口論になるかもしれないだろう。こうした騒動に発展した場合、多分誰かが動画撮影をしている。とにかくどいつもこいつもツイッターの「いいね」とRT(リツイート)が欲しくてたまらないのだ。意を決して注意した結果口論に発展した自分の義憤が、「いいね」とRT稼ぎごときに利用され、場合によっては「小田急線激高オッサンの勤務先が判明! 大手一流商社の経理部所属、年収は? 妻は美人と評判。慶應出のエリート!」なんてことがメディアに書かれてしまうことになる。

 非があれば謝罪し、誠意ある対応を

 冒頭の「勝手に捨てた」件では、ホテル側の対応にあまりにも不可解な点があったため言語道断である。だが、時にはわざと怒らせるようなことをし、それをもってして悪評を巻き散らかされることもあるわけで、とにかくいかに理不尽なことをされようが「丁寧であれ」「決して怒るな」を従業員には徹底させなくてはならない時代だ。そしてもっとも重要なのが「非があった場合は潔く謝り、誠意をもって対応する」ことだ。

 今回の件では、よっぽど非常識な育ち方をしていない場合「勝手に開けた」という第一ステップでもうホテル側の対応はおかしい。その場合は「勝手に開けたことを心よりお詫び申し上げます」と述べたうえで、あとは賠償金の話にすぐさま持って行けばこうしてツイッターで暴露されることはなかったのかもしれない。

 ホテル側は“客がこの段ボールの中に大切なものが入っていることを客が伝えなかったから瑕疵はない”といった対応をしたのだという。ホテルの言い分を丸めると「あなたは大事であることを事前に伝えるべきだった」「そこを伝えないのに、こうして文句を言われても困る」ということだろう。いや、「そもそも開けるのがおかしいんですが…」と客が言いたくなる気持ちは分かる。ガレージキット自体は材料費がかかる上に依頼されて作ったもののため、賠償する必要があるのだが、男性が請求した額よりも大幅に下回る3万円の現金書留が送られ、男性は受け取らなかったそうだ。現在、彼のツイッターには激励の声が多数寄せられている。

 失うものが多すぎる時代

 今の時代、客が理不尽な対応をされた場合はすぐさま世間様に告発できるようになっている。かつては泣き寝入りさせることができたかもしれないが、SNSもあるし、ホテルにしても飲食店にしてもレビューサイトで悪評はいくらでも書き込むことができる。

 だからこそ、品行方正であり続けなくてはいけないのだ。私自身、かつては街を歩いていて、横並びで道を塞がれた場合など、苛々して舌打ちをすることなどはあった。だが、ここ数年、一切そういうことをしなくなった。常に「仏の心」で「皆さん、仲が良くて素晴らしいですね。その青春時代を大切に、立派な大人になってくださいね」のように考えるようになっている。

 とにかく今の自分は失うものが多過ぎる。一瞬の感情からキレてしまったりした場合、どんなダメージをくらうか分からない。だからこそ、感情のコントロールと「常識的であれ」ということは常に考えている。この2つができるだけで、個人も、組織も両方を守ることができる。

 件のホテルについても「勝手に開けない」という常識がなかったからこそこうして炎上した。現在、ツイッターには同ホテルに対する散々な評判が多数書き込まれ、さらにはレビューサイトでも「星1つ」が次々と書き込まれる状態になっている。別の非常識行為(本当かどうかは不明)も暴露されており、自分が従業員だったら「もうやーめた」という状態になっている。つくづく「常識的であれ」の重要さを感じる騒動だった。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

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ネットニュース編集者
PRプランナー

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

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