コロナ時代に嫌われる上司 テレワーク環境下でマネジメント難度高まる

2020.6.18 14:10

 テレワークが普及する中、上司に求められる“傾聴力”はますますグレードアップしていると言います。傾聴には自信があるという人も、傾聴の方向性がずれていないかどうか、改めてチェックを! 上司部下の会話の対比でわかりやすく解説します。

 コロナ時代の好かれる上司・嫌われる上司とは

 新型コロナウイルスの影響により、働き方に大きな変化が起きています。特に大きな変化として挙げられるのは、仕事をする場所・時間・コミュニケーション手段の3つです。3つの変化により、社員一人ひとりが多様な仕事環境で働ける社会が実現しつつあります。

 一方で、業務推進はもちろんのこと、部下がどのような悩み・不安を抱えているか、上司は把握しづらく、マネジメント難度や負荷が高まっています。そのような変化の大きい環境下で、好かれる上司と嫌われる上司の評価の分かれ目はどう変化するのか、考えていきます。

 今までの職場で、好きな上司と嫌いな上司の違いは何だったでしょうか。いくつか挙げられると思いますが、その中でも「自分(部下)の気持ちを察してくれる」ことは、違いの一つではないでしょうか。テレワーク環境下では、「部下の気持ちを察する」ことが通常以上に強くに求められることになります。

 このように書くと、「好かれる上司が良い上司とは限らない」「部下に迎合するのが良い上司ではない」と思う方もいらっしゃるでしょう。もちろんその側面はあります。ですが、テレワーク下という環境において、部下から心理的に距離をおかれると、マネジメントは一層難しくなります。

 部下から自発的に報告を上げたり、ささいな相談をしたりするハードルが高くなり、その状態が続くと、不安や心配事をためることになります。そして気づいたら取り返しのつかないような大きなミスにつながったりもするのです。だからこそ、部下の気持ちを察する力が、これまで以上に求められます。

 嫌われる上司は、意識が自分に向いている

 では、部下の気持ちを察するには、どのような関わりが必要でしょうか。今回は、傾聴という、「相手の話の背景にある気持ちを聴く関わり」をご紹介します。傾聴には3つのポイントがあります。それぞれについて見ていきましょう。

 ポイント1:自分ではなく、「部下に意識」を向ける

 テレワーク環境下では、相手よりも自分に意識が向きがちになります。自分に意識が向いている状態とは、相手の話を聞きながらも、自分が気になる別のことを考えている状態です。WEB会議で相手が話している最中に、その内容の結末を予測して、次の質問を考えていることはないでしょうか。ここでは、よりイメージしやすいようにテレワーク環境下での上司と部下の対話例で、対比してみましょう。

 【自分に意識が向いている状態】

 【部下】A社の担当って、私じゃないと駄目でしょうか? 実は、A社のプレゼンについて、……

 【上司】(たぶん、A社の担当が嫌だって言うんだろうな。どうすれば納得してくれるかな……)

 【部下に意識を向けている状態】

 【部下】A社の担当って、私じゃないと駄目でしょうか? 実は、A社のプレゼンについて、……

 【上司】(A社のプレゼンについてか、部下の表情がつらそうだな。何が不安なのだろう)

 自分に意識を向けて聞きがちな上司は、部下の想いや気持ちはもちろんのこと、話自体が耳に入っていません。上司は部下の話を聞いていると思っていても、部下からすると上司が話を聴いてくれないという現象の背景では、このようなことが起きているのかもしれません。部下に意識を向け続けるのは意外と難しいので、まずは自分の意識がどちらに向いているかに気付くことからはじめると良いと思います。

 嫌われる上司は部下の気持ちより話の内容が気になる

 ポイント2:話の事柄よりも、その背景にある「気持ちに意識」を向ける

 相手の話を聴くという行為には、「話の事柄に意識を向けて聴く」と「事柄の背景にある気持ちに意識を向けて聴く」という2つのアプローチがあります。

 話の事柄に意識を向けるとは、5W1Hで、網羅的に話の事柄に関連する情報を収集しようとするアプローチです。次に、事柄の背景にある気持ちに意識を向けるとは、言葉には出ていない部下の気持ち、価値観などを察しようとするアプローチです。ここでも上司と部下の対話例で、対比してみましょう。

 【話の事柄に意識を向けて聴く】

 【部下】実は、A社のプレゼンをうまくできるイメージが、持てないのです。

 【上司】そうか、それならプレゼンの位置づけと目的、対象を教えてくれるかな。

 【事柄の背景にある気持ちに意識を向けて聴く】

 【部下】実は、A社のプレゼンをうまくできるイメージが、持てないのです。

 【上司】うまくできるイメージが持てないのだね、それは不安だし、焦るよね。

 ビジネスでは成果を出すことを求められるので、話の事柄に意識を向けて、成果につながる事柄のアドバイスをするのは、もちろん必要です。一方で、不安や心配になりやすいテレワーク環境下では、「自分の気持ちを分かってもらえる安心感」を部下が特に求めているため、部下の気持ちに配慮したコミュニケーションを意識したほうがよいいでしょう。

 嫌われる上司は「部下の真意」が読めない

 ポイント3:気持ちの中でも、部下の「真意に意識」を向ける

 ここで言う真意とは、表面から捉えにくい本当の気持ちのことです。前述した、事柄の背景にある気持ちに意識を向けて聴いたとしても、部下の真意を捉えることは対面でも難しいものです。テレワーク環境下では、真意を捉えるのに必要とされる、微妙な表情の変化や熱量の変化が捉えづらく、難度はますます高まります。そのような状況下でも、部下の真意に意識を向け続ようとする上司が、好かれる上司なのではないでしょうか。ここでも、対比例をご紹介します。

 【表面的な気持ちを捉える】

 【部下】プレゼン当日は、自分のせいで自社に迷惑かける気がして不安なのです。

 【上司】(プレゼンの内容が不安なのだろう)それなら大丈夫だよ、私もオンラインで同席するからプレゼン内容の補足をできるからさ。

 【部下】(内容の不安はないのだけれど)……はい、ありがとうございます。

 【真意に意識を向ける】

 【部下】プレゼン当日は、自分のせいで自社に迷惑かける気がして不安なのです。

 【上司】(不安と感じる真意は何だろう)当日、自社に迷惑かけることで不安なっているのだね。その気持ちはどこから来るのかな?

 【部下】……実は、テレワークだと、リビングで仕事をするしかなく、2歳になる娘の声が気になってプレゼンに集中できないのです。

 双方を比較すると、部下への理解の深さが大きく異なることが分かると思います。部下の真意に意識を向けるには、「部下は、第一声で真意を伝えないもの」という認識を持つことが大切です。なぜなら、部下には上司に負担をかけたくないといった配慮や、何を伝えたいのか自分でも整理できていないなど、さまざまな思いがあるからです。

 上司はあえて嫌われようとしているわけではない

 テレワーク環境下における、好かれる上司と嫌われる上司の違いとして、部下の気持ちを察する関わりをご紹介してきました。最後になりますが、具体的な関わり以上に、その根底にある「見えない状況でも、部下の気持ちを察しようとする姿勢」が大事であることは、お伝えしたいと思います。

 冒頭に述べた通り、テレワーク環境下でマネジメント難度や負荷は、かつてない程高まっています。部下から嫌われる上司も、あえて嫌われようとしているのではなく、「そうなってしまう事情や理由」があるのかもしれません。そうなってしまう上司の立場・状況・気持ちを察しようする姿勢を部下も持っていると、お互いを生かし合える関係になれるはずです。(リクルートマネジメントソリューションズ OD事業開発室 星野 翔次)

 星野 翔次(ほしの・しょうじ)

 リクルートマネジメントソリューションズ OD事業開発室

 ベンチャー企業・商社勤務を経て、2013年、リクルートキャリア入社。斡旋事業部の管理職として、部下がパフォーマンスを最大限発揮できるコミュニケーションを追求。その取り組みが評価され、最優秀マネジャー賞など、数々の表彰を受ける。19年、リクルートマネジメントソリューションズへ転籍。コンサルタントとして、上司部下間のコミュニケーション改革を起点とした、組織開発に携わっている。国家資格 キャリアコンサルタント。

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