政府が新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言を12日から8月22日まで東京都に発令することを決めたことで、東京五輪は宣言下で行われる異例の事態となった。6月の宣言解除からわずか3週間、菅義偉(すが・よしひで)首相が政権への逆風が強まるのを承知の上で発令に踏み切ったのは、五輪前に政府主導で感染対策を講じられる最後のタイミングと判断したからだ。
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「お盆は人流が多くなる。専門家がどうしても人流を止めたいと言うから」。首相は7日夜、周囲に都の宣言発令期間を8月22日までにした理由をこう語った。
官邸が懸念するのは、7月23日から9月5日までという五輪・パラリンピックの開催期間が「感染状況をコントロールするには長すぎる」(首相側近)ことだ。五輪開幕後に感染状況が悪化しても、主催者ではない政府の権限は限られ、機動的な対策を取りにくくなる可能性がある。
五輪と夏休みの帰省ラッシュが重なり、人流が急増すれば感染爆発の恐れもある。秋までに行われる衆院選を前に感染拡大を招けば、首相の求心力は低下し、政権を直撃するのは必至だ。
しかし、コロナ対策の切り札であるワクチン対応は出遅れた。デジタル改革や脱炭素社会の実現など「看板政策に集中するあまり」(官邸筋)、今年4月下旬になっても国民へのワクチン接種の完了時期は決まっていなかった。
重症化しやすい65歳以上のワクチン接種を優先し、病床の逼迫(ひっぱく)を回避する首相の戦略も、感染力が強いとされるインド型変異株(デルタ株)への置き換わりが進み、ワクチン未接種者が大半を占める若い世代の感染が急増したことで見直しを迫られた。
東京都に適用中の蔓延(まんえん)防止等重点措置を延長する方針が急転直下、宣言発令に転換したのは4日の東京都議選直後だ。宣言に移行すれば「アスリートのため」(首相)の有観客での開催は断念せざるを得ない。だが、ワクチン接種の遅れから衆院選の前哨戦である都議選で自民党が苦戦し、「新規感染者の急増を放置できない」(高官)との危機感が広がったからだ。
首相は8日の記者会見で国民にワクチン接種を呼びかけた上で「新型コロナとの戦いに終止符を打ち、安心できる日常を必ず取り戻す」と明言した。後手に回ったワクチン対策を「強い信念」(首相)で挽回し、宣言発令を本当に今回で最後にできるか。首相の双肩にのしかかる責任は重い。(小川真由美)