島を歩く 日本を見る

    圧倒の自然美 歴史ロマンも 前島(岡山県瀬戸内市)

    岡山県東南部の瀬戸内海沿岸の沖合300メートルに、「緑島」とも呼ばれる自然豊かな前島が横たわる。

    前島の展望台から一望できる瀬戸内海の多島美。〝日本のエーゲ海〟とも称される
    前島の展望台から一望できる瀬戸内海の多島美。〝日本のエーゲ海〟とも称される

    島全体が国立公園で、瀬戸内市からたった5分の船旅で一層自然が濃く感じられる。船上からは時折、ネズミイルカ科のスナメリが見られる。以前は瀬戸内海全域で目撃されたが、高度成長期に激減し、現在、生息が明らかにされている地域は前島を含めてごくわずかだ。

    島の基幹産業は農業で、集落がある西部では野菜畑が広がり牧歌的だ。かつては各家が収穫した野菜を各自の農船に載せて島外へ売りに出ていたらしい。そのなごりで、今でも傷みにくいカボチャやキャベツ、スイカなどが多く栽培されている。

    集落を散策すると、畑の合間などで咲き誇る華やかな花々が目に留まる。今年になって、島民有志の呼びかけで「愛する前島プロジェクト」が発足し、島内外のボランティアが花を植え始めたという。島の人たちは、「『花の島』と呼ばれたい」「花で四季を感じてほしい」と話す。夏にはヒマワリ畑が姿を見せる予定だ。

    島内では季節ごとに色とりどりの花が咲き誇る
    島内では季節ごとに色とりどりの花が咲き誇る

    島のほぼ中央部にある山の中には、江戸初期の大坂城築城残石群が見られる。これまでの調査で複数の丁場跡が確認された。残石の中には、徳川家による大坂城再建の際に使われた石垣の刻印と同じ松江藩堀尾家や鳥取藩池田家の刻印が発見された。母岩をはじめ、整形して山から下ろす寸前の石まで、石を切り出す工程の各段階がそのまま残る。まるで忽然と石工たちだけが消えてしまったかのようだ。

    近年、前島は自然教育や体験学習の場として島外から多くの学校や企業などの関係者が訪れる。東部の「牛窓研修センター カリヨンハウス」では、いかだ作りや漁業・農業体験、スナメリウオッチングなどさまざまな体験プログラムが用意されている。

    元瀬戸内市地域おこし協力隊の小原悠雲さんは、島に「夕陽公園」を設置したり、子供向けのキャンプ体験などを実施してきた。今後は、瀬戸内市集落支援員としてワーケーション事業に力を入れ、自然の中で働ける場を作りたいという。

    自然との共生や環境問題などが注目される昨今、本土のすぐ近くで自然体験の環境が整う前島が、「自然教育の聖地」と名を立てる未来も近いだろう。


    ■アクセス 岡山県瀬戸内市の牛窓港からフェリーが運航。


    ■プロフィル 小林希(こばやし・のぞみ) 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後に帰国して、『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆およびフォトグラファーとして活動している。これまで世界60カ国、日本の離島は100島をめぐった。


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