「けいちゃんはね、のじのじバスなんだよ」。次男の通う幼稚園からの帰り道、唐突に言われました。
園生活にも慣れ、けいちゃんというお友達もできたのだなあと、帰宅後の段取りに夢中な私はぼんやりと思っていました。
当時の私は長男の初めての小学校生活や、8年ぶりの仕事でいつも頭の中はぎゅうぎゅう詰めでした。のじのじバスはどんなバスかな、と思ったものの、私の心をすうっと通りすぎていきました。
「ここを曲がると、のじのじの先生」。またある日、そう次男がつぶやきました。
のじのじはバスでもあるし、先生でもあるの? と気になったものの、忙しさにまたどこかへ消えてしまいました。
長男の宿題の音読を聞きながら夕食の支度に追われていると、次男は「のじのじのノート使う?」と、私の緑色のレシピノートをポンと渡してくれました。
もしかして、のじのじは緑なの? 少し舌足らずの次男は緑を「みろり」ととても言いにくそうだったのです。いつしか「みろり」が「ろり」になり、なぜか「ろり」が「のじ」になり、果てには「のじのじ」になっていたようです。
のじのじバスは幼稚園の緑バスで、のじのじの先生は小児科の緑川先生だったのです。長男の小学校生活、仕事や家事にと私の勝手な優先順位の中で、次男をこんなにも置き去りにしていたのかと胸がキュッとしました。
今ではもう乗らなくなった緑バスを見かける度に、今だけしかない大切なものに気づいてね、と優しく教えてもらうのです。
林桃恵 45 大阪府吹田市