第165回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が14日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は石沢麻依さんの「貝に続く場所にて」(群像6月号)と李琴峰(りことみ)さんの「彼岸花(ひがんばな)が咲く島」(文学界3月号)に、直木賞は佐藤究(きわむ)さんの「テスカトリポカ」(KADOKAWA)と澤田瞳子(とうこ)さんの「星落ちて、なお」(文芸春秋)に決まった。両賞で4人受賞は平成23年以来。選考会での講評を紹介する。
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際立つ2作品
石沢さんの「貝に続く場所にて」と李さんの「彼岸花が咲く島」のダブル受賞となった芥川賞の選考過程について、松浦寿輝(ひさき)選考委員は「2作は最初の講評のときから、評価がほかの3作と比べて際立って高かった」と振り返った。
受賞の2作を比較すると、李作品の評価がやや低く、その扱いについて最終的に選考委員で改めて議論。「2作受賞になってかまわないという意見が大勢を占めた」という。
東日本大震災を題材にした石沢作品については、「自分自身の個性的な文章を作ろうとする強い文学的な志向がある」とされ、「全体としては小説にしかできない一つの世界を作り出そうとしている」と評価された。
<ニホン語><女語(じょご)><ひのもとことば>という架空の言語が登場する李作品は「3つの言葉を織り交ぜて衝突しあったり、共鳴しあったりする言語空間を作り上げようとしている。その野心的な冒険性が評価され、受賞となった」という説明があった。日本語を母語としない李さんの受賞について、松浦委員は「日本語を母語としない人たちが入ってきて、日本語自体が変わっていくこともこれからあり得る」として、その歴史的意義を強調した。
一方、受賞を逃した3作品の評価は厳しかった。
くどうれいんさんの「氷柱(つらら)の声」に対しては、「書き方が少し幼いというか未熟な感じがする」とされた。高瀬隼子(じゅんこ)さんの「水たまりで息をする」については結末が「やや不透明に終わっている点が消化しきれない」という感想があり、千葉雅也さんの「オーバーヒート」は「古めかしい私小説ではないのかという批判があった」との紹介があった。
「嫌悪感」対「希望の物語」
2作が選ばれた直木賞の選考会。賞に輝いたのは、神話を絡めて麻薬戦争と臓器売買を描いた佐藤さんの「テスカトリポカ」と、父である不世出の絵師と同じ絵の道に進んだ女性の一代記を書いた澤田さんの「星落ちて、なお」だった。林真理子選考委員は「3時間にわたる激論となり、決選投票で同点となった。素晴らしい作品を受賞作にできました」と振り返った。
議論を呼んだのが佐藤さんの作品だ。残虐な犯罪や暴力シーンをめぐり、文学論となったという。「子供の臓器売買は読み手に嫌悪感をもたらす」「大きな賞を持って世に送り出していいのか」と否定的な意見が出る一方、「ある意味で希望の物語」「現実で起こっていること」など女性の選考委員に支持する声が多く、最後は「これだけスケールの大きい作品を受賞作にしないのはあまりに惜しい」という結論に達した。
候補5回目となる澤田さんの作品は「主人公はやや地味だが、きめ細かな描写で最後まで読ませた。エンターテインメントとして非常に技量がある」と評価された。
一歩及ばなかったのが、一穂ミチさんの「家族」をテーマにした連作短編集「スモールワールズ」。「今を生きる人の息遣いがある」と推す声があったが、「既視感がある」として支持は広がらず。昭和、平成、令和の時代を描く呉勝浩さんのミステリー巨編「おれたちの歌をうたえ」は、「力作だったが、年齢的に革命や赤軍派についていまひとつ分かっていなかったのではないか」と厳しい意見もあった。砂原浩太朗さんの「高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)」は、架空の藩を舞台にした時代小説だが、「ややオリジナリティーに欠けている」として、選外になった。