日本マクドナルドが東京・銀座に日本第1号店を出店してから、20日で50年を迎えた。日本に「食べ歩き」の文化を広め、安く手軽に食事を楽しむ「ファストフード」の先駆けとなった。50年の間に、調達先の中国企業の使用期限切れ鶏肉問題による顧客離れなどの危機も経験した。価格で勝負する企業にとって、中国をはじめとする外国とのつながりは不可欠だ。一方、米中対立が深刻化する中、これらの企業が地政学リスクに巻き込まれやすくなっている現実もある。
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カリスマ起業家として名をはせ、多くの経営者に影響を与えた藤田田氏が日本マクドナルドを創業し、第1号店をオープンしたのは銀座三越の1階。当初は認知度が低く、店の前を素通りする人が多かったというが、徐々に米国文化にあこがれていた若者をとりこにしていった。
マクドナルドは食べ歩き以外にも、多くのものを日本にもたらした。昭和52年10月には日本初の本格的なドライブスルーに対応した店舗をオープンしたほか、店舗運営の戦力としてアルバイトの採用を始めた。60年2月には朝食メニューを導入し、出勤前のサラリーマンの腹を満たした。
平成2年12月には全都道府県への出店を果たし、日本のどこへ行ってもマクドナルドの「ハンバーガー」や「マックフライポテト」を味わえるようになった。
マクドナルドの強みは規格化されたメニューと徹底的に磨かれた店舗運営ノウハウだ。その勢いはバブル経済が崩壊するとさらに増す。
地価下落とともに出店ペースを加速し、14年には約3900店舗(現在は約2900店舗)まで拡大した。
低価格戦略も鮮明にしていく。6年3月にハンバーガーとポテト、飲み物のセットで400~600円の3つの価格帯の「バリューセット」を売り出し、12年2月にはハンバーガーを65円で売る平日半額の施策が話題となり、デフレ時代の勝ち組となる。
その後も注文を受けてから商品を作る調理システムを導入するなど、品質の向上に努めつつ、17年4月にはさまざまな単品メニューをワンコインで提供する「100円マック」を始め、集客につなげた。
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ただ、この50年間は決して順風満帆だったわけではない。
最大の危機は、26年7月に明らかになった調達先の中国企業による鶏肉の使用期限切れ問題だ。結局、日本に問題の鶏肉は輸入されていなかったが、翌年に異物混入が相次いで発覚した不祥事も重なり、深刻な顧客離れが起きた。
これを受け、同社は信頼回復に向けた取り組みを強化する。母親たちに生産現場を直接見てもらったり、商品パッケージに印字されたQRコード(二次元バーコード)をスマートフォンで読み取ると、食材の原産国や加工国の情報が分かる仕組みを導入するなど、情報開示の充実も進めた。
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安さと品質の両立は簡単なことではない。これは「ユニクロ」などのファストファッションの世界にも通じる課題だ。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは今、中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の強制労働によって生産された綿を商品に使っているとの疑惑に揺れる。今月に入って、仏検察当局が「人道に対する罪」の隠匿容疑でファストリ仏現地法人の捜査を始めたことが報じられた。また米関税当局は1月、輸入禁止措置に違反したとして、ユニクロのシャツの輸入を差し止めた。
人権問題に対する消費者の目は日に日に世界的に厳しくなっている。
ファストリの岡崎健グループ上席執行役員最高財務責任者(CFO)は15日、東京都内で開いた決算記者会見で、新疆綿を製品に使っているかとの質問に明言を避けつつも、「国や地域にかかわらずサプライチェーン(供給網)の人権問題(解消)は最優先の経営課題だ」と語った。
ファストフードやファストファッションの企業はサプライチェーンの効率化や省人化で競っており、海外での原材料調達や加工が欠かせない。特に市場が大きく、地理的にも近い中国への依存度は高い。しかも米中の対立が深刻化している今、中国との取引にリスクはつきものだ。
みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「価格勝負の企業は外交問題に巻き込まれるリスクを常に抱えている」とした上で、「サプライチェーンが止まったときの代替は常に持っておく必要がある」と指摘する。
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新型コロナウイルスの感染拡大で多くの外食産業が苦戦する中、日本マクドナルドは好調だ。既存店の売上高は今年6月まで12カ月連続で前年を上回っている。親会社の日本マクドナルドホールディングス(HD)は令和3年12月期に前期に続き、過去最高の連結営業利益を見込んでいる。
人との接触を避けられる宅配やドライブスルーの利用が伸びた。ただ、現場の負担感が急激に増しており、品質を保ちながら成長を続けるには、ここの効率化が欠かせない。
足元で強化しているのは、ハンバーガーの調理システムの刷新だ。必要な面積はほとんど変えずに、ラインを4つに増やし、生産能力を倍増させた。ほかにもドライブスルーの注文口を増やしたり、豪雪地帯の店舗に宅配用の軽自動車を配備するなどの改善に取り組んでいる。
日本マクドナルドHDは今年3月、創業50年の節目を前に経営トップが交代した。顧客第一主義を徹底し、見事に経営を立て直したサラ・カサノバ氏から、日色保氏が社長兼最高経営責任者(CEO)の職を継いだ。日本の経済成長とともに歩んできた日本マクドナルド。次の半世紀に向けて、消費者にどんな楽しさや驚きを届けてくれるのか注目していきたい。
(経済部 米沢文)