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【書評】『水よ踊れ』岩井圭也著 香港の未来 身近に感じよ

中国共産党が創建100年を迎える一方で、香港では民主化への弾圧が加速している。自由と独裁のはざまで揺れ動く民心はどこへ向かうのか。1997年に英国から中国に返還された香港。返還前夜を舞台に、香港が抱えることになった命運をエンターテインメントの世界で正面からリアルに描いた。

『水よ踊れ』岩井圭也著(新潮社)
『水よ踊れ』岩井圭也著(新潮社)

日本から一人の青年が交換留学生として香港に渡るところから物語は始まる。だが、そこには隠された理由があった。香港に居住していた少年時代に出会った少女の謎の死を解明することである。共産党員らしき教授や難民、独立を唱える活動家らを通して浮かび上がる香港と中国の実相。やがて青年も民主化運動の渦にのまれていく。

香港は中国に返還されたが、それは英国から見た場合のことであり、中国から見れば回帰である。自由な香港に密入国してきた人々や近隣国からの難民が住みつく一方、中国人、英国人、さらには日本人と、さまざまな人生が矛盾と葛藤の中でうごめいてきた。尖閣諸島問題では親中の立場でも、中国の民主化弾圧では反中の矛盾にさいなまれる。回帰によって住民の胸中はどう動いていくのか。

青年の専攻は建築学である。その設定も非常に興味深い。国の建設は都市の開発に負うところが大きく、都市の顔を描き出すのは林立する建築物だ。それを設計する過程は国家を建築していくことにも等しい。中国共産党の独裁による国家がどのようにして、いまの国家を築き上げてきたか。その背後にある論理もスリリングに描いていく。

香港出身の著名人といえばブルース・リー(1940~73年)だろう。映画『燃えよドラゴン』の冒頭の香港を見下ろすシーンは活気ある自由の世界へと誘う。抗議デモの合言葉ともなっているリーの言葉「水になれ、我(わ)が友よ」は本書を貫く思いでもある。ときに破壊力を持つ水は自在に形を変えて流れ続け、物語を現在につなげる。

問題解決に政治は知恵を絞り切れているのだろうか。英国は同志の国とともに香港の権利と自由が侵害されないよう、中国を抑えていく意向だと聞く。独裁政権に支配されようとする香港の未来を身近に考える契機としたい。(新潮社・2420円)

評・蔭山実(文化部)


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