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【正論9月号】北でうごめく反金正恩のマグマ 関東脱北者協力会代表 木下公勝

※この記事は、月刊「正論9月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

北朝鮮・平壌で開かれた老兵大会で演説する金正恩朝鮮労働党総書記(中央)=27日(朝鮮中央通信=共同)
北朝鮮・平壌で開かれた老兵大会で演説する金正恩朝鮮労働党総書記(中央)=27日(朝鮮中央通信=共同)

 北朝鮮の政治犯収容所を描いたアニメ映画「トゥルーノース」が六月四日に公開され、脱北者である私も観てきた。在日コリアン四世の清水ハン栄治監督が、実際に収容所経験のある五人を含め、多くの脱北者に話を聞いてつくった映画だという。

あまり知られていない北の政治犯収容所を日本の皆さんに知ってもらえるよう描いてくれたことを、一脱北者として感謝している。一方で、私は北に住んでいたときに政治犯収容所の解体工事に従事したことがあるが、実態はもっと悲惨だということも付け加えておきたい(詳しくは拙著『北の喜怒哀楽』を参照してもらえれば幸いである)。

 とはいえ、北の実情は外部にはほとんど漏れ伝わらず、国全体が収容所のようなものだといえる。そのような中で、脱北者仲間の協力も得て北朝鮮から得られた最近の情報を、ここに報告する。

「英雄」が政治犯収容所に

 北朝鮮の政治犯収容所には本物の政治犯というよりは、密告などで無実の罪で収容されている人も多いとされる。そこへ最近、金正恩の異母兄・金正男を暗殺した実行犯が収容されたとの証言が北から伝わってきた。

 二〇一七年二月十三日、金正日の長男である金正男がマレーシアの空港で白昼、毒薬で暗殺された。金王朝の三代目・金正恩(金正日の三男)にとって、金正男は最大の政敵であり、またコンプレックスを抱いていた。金正男は祖父・金日成からの「白頭山の血統」の持ち主であり、中国共産党の内部では青二才の金正恩よりも金正男のほうが正統な後継者として認識されており、中国当局は北を離れた金正男の身辺を警護していた。また海外にいる金正男に秘密裏に生活費を提供していたのが、金正恩によって残虐に処刑された張成沢(金正日の妹の夫)であった。

 張成沢は二〇一三年末に処刑されたがその後、金正恩の指示によって五人からなる金正男暗殺集団が結成された。暗殺集団のリーダーは、テロや暗殺、破壊活動の専門部署である「偵察総局」の第七課課長、チェ・スンホという暗殺の専門家、つまりは殺し屋であった。金正男暗殺を成功させたチェは、金正恩から共和国英雄称号を授与された。

 ところが今年四月、チェをはじめとする暗殺集団の五人が突如、北朝鮮中部にある耀徳(ヨドク)政治犯収容所に収監されたというのである。その後、五人がどうなったのかは誰も知らない。金正恩にとっては、暗殺集団は使い捨ての猟犬同様で、異母兄を殺害した実行犯をそのまま生かしておくわけにはいかなかったのであろう。

 しかし私は近い将来、金日成一族の極悪非道な悪事の数々は必ず世界に暴露され、ナチス・ヒトラーと同様に蛮行のすべてが歴史に残るはずだと信じている。

首都中枢で反体制の横断幕

 本誌昨年十一月号では、韓国から北朝鮮に向けて飛ばされた反体制ビラについて報告したが、私が脱北者仲間とも協力して北朝鮮内部から得た情報によると最近、北朝鮮では前例のない反金正恩勢力が、緻密に組織化され運動を展開しているよ

うだ。首都・平壌の大学生たちの間をはじめ、全国各地で金正恩独裁体制への不満がマグマのように地下でうごめいている。

 もともと北朝鮮は慢性的に食糧事情が厳しい国だったが、一九九〇年代後半ともなると配給制度が完全に機能しなくなり、数えきれないほどの餓死者が出た。「苦難の行軍」と呼ばれるこの時期に、北朝鮮では三百万人が餓死したといわれている。食糧は当局が黙認していた闇市場(チャンマダン)で手に入れるしかなかった。国家による配給の期待できない境遇に育った「チャンマダン世代」の青年層や大学生は当然ながら本心では国家を信用しておらず、金正恩に対する忠誠心などないのだ。

 平壌をはじめ首都近郊の平城、順川、沙里院、西海岸沿いの平安南道・北道はもちろん、中朝国境沿いの新義州や恵山、会寧などの地方都市でも反体制ビラが撒かれたり、風刺画や落書きが市役所や保衛部(秘密警察)庁舎、安全部(警察)庁舎の外壁に張られたり書かれたりしたのが確認されている。そこで保衛部や安全部が大々的な捜査を展開しているが、北朝鮮では電力不足もあって都市部でも監視カメラがほとんど普及していないため、犯人はほとんど捕まっていないという。 今年になって、平壌中心部の金日成広場近くで、大型の横断幕が夜の間に、街路樹の枝と枝の間に掛けられるという事件があった。その横断幕には「金正恩を除去して第二の安重根(※伊藤博文を暗殺した青年)になろう!」「韓国は世界十番目の経済大国なのに我が国は世界で一番苦しい貧困国家! 原因は何か!」と大書されていた。また各地で撒かれたビラには「核より食べ物を出せ!」「またもや苦難の行軍?ではなく奴隷行軍、餓死の行軍だ!」「我が国は誰のための国か!」といった内容で、以前と違って国民の恨みつらみをストレートに打ち出した絶叫といえるものだ。

 ある地方で見つかった風刺画では「我が国で一番、太っている豚からつぶして食べるしかない!」となっており、そこに描かれている丸々とした豚の顔は金正恩のものであった。

体制内部からの反旗か

 今年に入って平壌市の郊外の、日本でいえば東京の足立区あたりに相当する寺洞(サドン)区域一帯で一万世帯のアパート建設が、金正恩の命令で進められている。各地の青年突撃隊(半強制のボランティア)や軍人、大学生までもが昼夜を問わずアパート建設に動員されて、燃料不足のため建設機械がほとんど使えない中、それこそ人海戦術で十数階建てのアパート建設にあたっているのだ。当然のことながら、転落などによる死亡事故も相次いでいるが、金正恩はそんなことにはお構いなしである。


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「正論」9月号 主な内容

【特集 令和の安全保障考】

日本の軍事力増強が台湾・尖閣有事を防ぐ㊤ 前内閣総理大臣 安倍晋三×元陸上幕僚長 岩田清文×元内閣官房副長官補 兼原信克

「抑止」重視へ変革する米海兵隊 元陸将・ハーバード大学上席研究員 磯部晃一

台湾防衛戦略 米国の出方を読む ハドソン研究所研究員 村野将 

デジタル安保構築で日米同盟強化図れ 慶應義塾大学教授 手塚悟 

米中の法律戦と立ちすくむ日本 株式会社アシスト社長 平井宏冶

【特集 政治にモノ申す】

求む、決断できる非常時型指導者 評論家 潮匡人

「挙国内閣」こそ回天の大事業だ 元産経新聞社専務論説委員長 吉田信行

統治機構改革で国民の信を問え 慶應義塾大学教授 松井孝治

「第三臨調」創設せよ 国家のモデルチェンジ急げ 政策シンクタンク代表 原英史

自民の〝立憲化〟は百害あって一利なし 「政界なんだかなあ」特別版 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

小沢一郎と共産党を自民党はあなどるな 元内閣官房長官 熊谷弘

【特集 人権弾圧国家・中国】

「在日ウイグル人証言録」本誌で連載する理由 評論家 三浦小太郎

<証言1>ムハラム・ムハンマド・アリ「いなくなって変わり果てた父」

<証言2>アブドウラー(仮名・男性)「いつ誰がどうなるかわからない

<証言3>グリスタン・エズズ「無事という連絡すらできない」

さようなら自由なる香港 在日香港人 ウィリアム・リー

香港で現代の文革が始まった 静岡大学教授 楊海英

台湾問題は新たな局面に チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

戦狼の大国に腰据えて臨め 国際ジャーナリスト 安部雅延

【特集 朝鮮半島情勢】

北でうごめく反金正恩のマグマ 関東脱北者協力会代表 木下公勝

韓国大統領選で飛び交う「腐敗、無能、国民略奪」 「朝鮮半島藪睨み」特別版 産経新聞編集委員 久保田るり子

【特集 戦後76年と歴史戦】

韓国と反日日本人に洗脳されたユネスコ 一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事・産業遺産情報センター所長 加藤康子

今に生きる「英霊の遺書」 ノンフィクション作家 早坂隆

インドネシア慰安婦強制の虚構 近現代史研究家 阿羅健一×日本近代史研究家 田中秀雄

連載「昭和の大戦とあの東京裁判」を読み終えて 「独立国家の面目」問うきっかけに 成城大学名誉教授 牧野陽子

GHQ洗脳に加担したメディアは懺悔せよ 大阪市立大学名誉教授 山下英次

やはり怪しい共産党・民青のフードバンク 元板橋区議(元日本共産党区議団幹事長) 松崎いたる

戦後最悪の国語改革 読むことは情報処理にあらず 文藝評論家、国語教師 前田嘉則

「つくる会」の迷走を憂う 本誌編集部 安藤慶太

夫婦別姓めぐる法廷論争は終わり 「フロント・アベニュー」特別版 麗澤大学教授 八木秀次



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