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【本ナビ+1】学習院大教授 中条省平 「随一の文章家」の決定版伝記『百間、まだ死なざるや 内田百間伝』

『百間、まだ死なざるや 内田百間伝』山本一生著(中央公論新社・3960円)

学習院大の中条省平教授
学習院大の中条省平教授


 私が初めて内田百閒(ひゃっけん)(本書では百間)の小説を読んだのは、中央公論社版「日本の文学」の『内田百閒 牧野信一 稲垣足穂(たるほ)』の巻で、編者が信頼する三島由紀夫なので、買ったのだった。

 この本の月報には三島と澁澤龍彦の対談が付いていて、そこで三島は「僕はこれからの人生でなにか愚行を演ずるかもしれない」と数カ月後の割腹自殺を仄(ほの)めかしている。

 死の直前に、三島はこの本を編み、百閒を「現代随一の文章家」であり、「人生最奥の真実を暗示し」、「鬼気の表現に卓越している」と激賞した。私もそこで「サラサーテの盤」などを読み、たちまち大ファンになった。

 あのときの熱狂から半世紀以上が経過して、ついに本書、百閒の決定版の伝記が出た。百閒のすべての作品と日記を精読し、巻末25ページに及ぶ参考文献を渉猟して、「内田百閒とその時代」を巧みに浮き彫りにしている。

 百閒といえば、極めつきの奇人、借金大魔王、酒吞(の)み、猫好き、列車マニア等々と、変わり者として神格化される傾向があるが、本書を読めば、じつに人間らしい温かみと哀(かな)しみを宿した存在であることがしみじみと分かる。

 初恋の人との熱愛と結婚と別離。教師として最後まで教え子たちから慕われた奇妙な人格。結構な収入があるのにどうしても借金なしでは暮らせなかった生活。そうした日常の不思議が、この本を読んでいると、素直に納得できてしまう。百閒が身近にいる人のように思えてくる。

 百閒晩年の作に、目的もなく鉄道の旅に出る「阿房(あほう)列車」シリーズがある。本書がそれを論じる件で、生者と死者が入り交じるところが素晴らしい。百閒の文学世界とは、そのように幽明境を異にしない場所、懐かしくも哀しい冥土への道を描くものだった。


『マン・レイと女性たち』巖谷國士監修・著(平凡社・2750円)


 シュルレアリスムを代表する写真家・美術家の全体像を、「女性たち」との交流を切り口にして見事に浮かびあがらせる。写真・カラー図版がたっぷりと詰めこまれた贅沢(ぜいたく)な作りで、いつまでもページを繰る手がとまらない。年譜や資料も完璧といってよい出来栄えで、まさに永久保存版の名にふさわしい書物だ。      ◇

ちゅうじょう・しょうへい 昭和29年、神奈川県生まれ。パリ大学博士。著書に『反=近代文学史』『恋愛書簡術』、翻訳にジッド『狭き門』など多数。


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