『神様の罠』辻村深月、米澤穂信他著(文春文庫・825円)
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コロナ禍で孤独な大学生に忍び寄るネット犯罪の結末(辻村深月「2020年のロマンス詐欺」)、大学内で競い合う2つの同好会による知的遊戯の行方(有栖川有栖「推理研VSパズル研」)…。
人気のミステリー作家が結集、六人六様で人の世の運命を描いた珠玉のアンソロジー。
余命わずかといわれながら愛を誓いあった2人の日々を描くのは乾くるみ「夫の余命」。歳月をさかのぼっていく構成にまず意表をつかれ、結末のどんでん返しに、度肝を抜かれた。
米澤穂信「崖の下」は、スキー場で崖下に転落したスノーボーダー二人のうち一人が他殺体で発見される。もう一人も大けがを負い、凶器も見つからない。一体、誰が、どんな方法で殺害したのか。
芦沢央「投了図」は、コロナ下での将棋タイトル戦開催をめぐる脅迫事件の真相に迫る。将棋好きな古書店経営者夫婦と棋士を目指す少年の交流も読ませる。
そして大山誠一郎「孤独な容疑者」は23年前に起き、時効を迎えた殺人事件の驚愕(きょうがく)の真相が明らかになる。
いずれも結末はもちろん、そこに至る展開、そして読後感まで、とても小気味良く、楽しめる。
人生には一歩足を踏み入れたら抜け出せない泥沼や落とし穴がある。当たり前のように過ごしている日常にも、「これまで無邪気に信じていたものの輪郭が、揺らいでいる」(「投了図」)瞬間が訪れることがある。
その先にどんなことが待ち受けているのか、人生を左右する「気づき」を得て、平穏な日常を続けることができるのか、それとも-。それこそが、「神様の罠(わな)」、運命のいたずらなのかもしれない。
『こころ』夏目漱石著(新潮文庫・407円)
「私」が書生のころに出会い、交流を続けてきた「先生」から、ある時、遺書が届いた。そこには先生の背徳の人生が切々と明かされていた-。
私の連載の最後は、皆さんご存じの文豪の代表作。そこで描かれる人の心に潜む闇と、愛を貫く思い、人生の痛みは、時を経て、年齢を重ねた折々の自分にも重なり、味わいも増していく。何度でも読み返したくなり、その度にため息が出るような名作だ。
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まるやま・けいこ 埼玉県出身。昭和51年、「どうぞこのまま」が大ヒット。アルバム「レトロモダン~誘い」を中心にライブ活動中。著書に『丸山圭子の作詞作曲・自由自在』。洗足学園音大客員教授。
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丸山圭子さんのコラムは、今回で終了します。