露首相択捉上陸と「新提案」に臆測 観測気球か圧力か

    日露両国による北方四島の共同経済活動をめぐり、プーチン大統領が新たな提案に言及したことが臆測を呼んでいる。政府内には日本の出方を探る「観測気球」との受け止めがある一方、停滞する平和条約交渉に影響する可能性もある。菅義偉首相はプーチン氏と対面の会談を行っておらず、9月2日からロシア極東ウラジオストクで開催される東方経済フォーラムで実現するかも焦点になる。

    7月26日、北方領土の択捉島で水産加工施設を訪れたロシアのミシュスチン首相(タス=共同)
    7月26日、北方領土の択捉島で水産加工施設を訪れたロシアのミシュスチン首相(タス=共同)

    ミシュスチン露首相が択捉(えとろふ)島に上陸した7月26日、加藤勝信官房長官は記者会見で上陸を非難しつつ「プーチン氏の発言は留意している」と述べた。プーチン氏は同月23日の国家安全保障会議で、北方領土をめぐりミシュスチン氏から投資促進の「良い提案」を受け取ったと発言した。そして択捉に上陸したミシュスチン氏は無関税特区の設置などを検討すると述べた。

    その意図について、菅首相に対露政策を助言する日本維新の会の鈴木宗男参院議員は、2016年に当時の安倍晋三首相とプーチン氏が合意した共同経済活動が「何も動いていない」として、「日本は本当にやる気があるのか、ロシア側は探っている」と指摘する。

    共同経済活動は観光や環境など複数の分野に及び、パイロット(試行)事業として観光ツアーなどが行われてきた。ただ、「双方の法的立場を損なわない形で実現するのは簡単ではない」(外務省幹部)うえ、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、本格的な事業化は難航している。

    政府は「提案」の情報を収集しており、外務省の山田重夫外務審議官は今月2日、モルグロフ外務次官と協議した。中身次第では共同経済活動や平和条約交渉の障害となる可能性もあるが、詳細な説明はないという。政府筋は「観測気球ではないか。日本は真剣に共同経済活動に取り組んでおり、提案があるならその中で話せばいい」と強調する。

    安倍氏は交渉を前進させるため、国後(くなしり)、択捉両島の返還には触れない1956年の日ソ共同宣言を重視する姿勢を打ち出した。菅首相も路線を継承したが、目立った進展はない。

    東方経済フォーラムが対面形式になれば、菅首相がプーチン氏と初の直接会談を行う機会となる。ただ、衆院選や自民党総裁選を控えて政治情勢が不安定な上、国内のコロナ感染が深刻化する中での外遊は一定の成果も求められることになり、難しい判断を迫られそうだ。(田村龍彦)


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