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【ビブリオエッセー】運命の一年を記した青年 「戦中派不戦日記」山田風太郎(角川文庫、講談社文庫)

山田風太郎といえば、わが書架に鎮座する『人間臨終図巻』を忘れるわけにはいかない。こちらは偉人たちの死に際を集めた客観描写が中心である。対して、『戦中派不戦日記』はあくまでも日記だから公開を前提にしていない。従って客観的事実以外は本名、山田誠也青年の主観と本音の記述で成り立っている。

それは、東京の医学生、山田青年が見た「昭和二十年の記録」である。その一年とは「いうまでもなく日本歴史上、これほど―物理的にも―日本人の多量の血と涙が流された一年間はなかったであろう」「そして敗北につづく凄じい百八十度転回―すなわち、これほど恐るべきドラマチックな一年間はなかったであろう」と書いている。

日記の前半は米軍のB29による連日の空襲の被害が記されている。三月十日の大空襲では、「眼には眼、歯には歯」「全日本人が復讐の陰鬼となって」と怒りを露わにしながら「また、きっといいこともあるよ」という女性の言葉に「人間への讃歌」をみて気を取り直す。

八月は広島、長崎への原爆投下で、「相当の損害あり」「威力侮るべからざるものあり」との大本営発表に「曾てなき表現なり。いかなるものなりや」と脅威をのぞかせる。

十四日は「国難!」の二字で始まり、とりわけ長い。絶望的な敗色にも「日本人の『不(ふ)撓(とう)不(ふ)屈(くつ)』の戦う意志」を信じ、国家の存亡に思いをはせる。そして十五日は「炎天」「帝国ツイニ敵ニ屈ス」とたった一行。この年の最後の日にも「いまだすべてを信ぜず」と書いた。

文中では将来の「山田風太郎」を彷彿させる詩や文章に接することができる。また、随所に見える読書の記録は教養の深さを実感させる。それは作家の目を鍛えた一年でもあった。

大阪府茨木市 浅野素雄(90)

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