「年会費がかかりますが、ポイントカードの新規入会されますか」─。レジで商品の会計をした際に店員からこう問われたら、多くの人は一瞬身構えるか、「いえ、結構です」と即答するのではないだろうか。しかし、1500円の年会費がかかるのに、登録者数が100万人を超える会員組織があるという。日本のアウトドア総合ブランド、モンベル(大阪市)の「モンベルクラブ」だ。アウトドア業界が活況を呈しているとはいえ、なぜこれほど多くの人を惹(ひ)きつけるのか。そこには特典やサービスだけではない会員制度の形があった。
登山愛好者の10人に1人がモンベル会員
1975年、大阪で産声をあげたモンベル。登山家でもある創業者の辰野勇会長らが「自分たちのほしいものを作る」ことを目指し、小さな倉庫で始めた文字通り「ガレージブランド」は、46年の時を経て年商840億円(2019年)という国内最大のアウトドアブランドに成長した。
経営面での躍進もさることながら、注目したいのはモンベルが運営する会員組織の登録会員数だ。組織発足35年目の今年4月、その数は100万人に達した。総務省のまとめによると、2020年の15歳以上の登山・ハイキングの行動者は972万7000人。つまり、登山愛好者のおよそ10人に1人以上がモンベルクラブ会員という計算になる。
モンベルクラブが発足したのは創業から11年目。今でこそ直営店販売を強みとするモンベルだが、当時は代理店、問屋、そして小売店を介して販売するという商習慣に身を置く企業の一つだった。人気商品だけが販売される仕組みに、モンベルの常務取締役広報本部長の竹山史朗さん(64)は「もどかしい思いがあった」と振り返る。
自分たちが届けたい商品を広く消費者に知ってもらうためにはどうすれば良いかを考えた末に、自社のカタログや会報誌を直送する会員制システムを立ち上げた。それがモンベルクラブの原点となった。
1500円の会費制は当時から。単純に制作と発送にかかる経費から算出した料金設定だった。「会員を増やすために会費無料とする発想は当初からなく、いかにしてクラブをサステナブルなものにしていくかが重要だった」という竹山さん。そのためには「モンベルのやり方を理解してくれるファン」を地道に広げていくことを優先した。
その後、商品購入時のポイント還元制度を導入したり、出かけた先で会員優待が受けられる宿泊施設などの提携先を広げたり、会員限定のイベントを開催したりと徐々にサービス内容を拡充。着実にファンを獲得し、創業30周年の節目を迎えた2005年、辰野会長が突然「会員100万人」を目標に掲げた。当時の会員数は7万8000人。100万人という数字ははるか遠く、社員の誰もが驚いた。
30年前の創業当初に思い描いた会社を実現させた辰野会長が「次の30年後の姿」に思いを巡らせたものだったが、会員数は予想をはるかに上回るペースで増え、わずか16年で100万人に達した。