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【中国観察】中国の移植用臓器、出所は「ウイグル族の囚人」か 欧米で相次ぐ指摘

拘束されたウイグル族やチベット族の臓器が強制的に摘出されている-。国連人権理事会の特別報告者が6月、同意もなく臓器を移植用に取り出す「臓器狩り」が、中国で少数民族の囚人らを対象に続いていると懸念を表明した。国際的な調査の受け入れを求めているが、中国政府は拒否。この疑惑は以前から指摘され、大きな進展を見せていないが、今年に入り米議員が上下院に中国を念頭にした「臓器狩り禁止法案」を提出。近年強まるウイグル族への人権弾圧批判の影響もあり、再び注目されつつある。

2019年4月、福岡市内で講演する医師のエンヴァー・トフティ氏。1990年代、中国新疆ウイグル自治区で、死刑囚から肝臓と腎臓を摘出させられた経験談などを語った(中村雅和撮影)
2019年4月、福岡市内で講演する医師のエンヴァー・トフティ氏。1990年代、中国新疆ウイグル自治区で、死刑囚から肝臓と腎臓を摘出させられた経験談などを語った(中村雅和撮影)

標的は良心の囚人?

「中国の臓器摘出への疑いに警鐘を鳴らす」

6月14日、国連人権理の特別報告者ら計12人が行った発表には、こんな標題がつけられ、「民族や宗教により、差別的な扱いを受けているとの報告を受けており、深く憂慮する」と懸念を示した。

発表によると、ウイグル族やチベット族、キリスト教徒などの囚人から、中国当局が臓器を強制摘出しているとの報告が複数寄せられているという。中国政府が「邪教」と弾圧する気功団体「法輪功」関係者も含まれ、多くが理由もなく拘束された〝良心の囚人〟だとしている。

具体的には、血液や超音波、X線など、本来は受ける必要のない検査を強制的に受けさせ、ドナー(臓器提供者)としてデータベース化し、必要に応じて心臓や腎臓などを取り出すというものだ。

臓器移植には脳死や心停止後の臓器を使う「死体移植」と、生きた健康な人の臓器を使う「生体移植」がある。後者はドナーの健康を害するため、世界的にも前者が手術の大半を占めるが、ドナーの死後にしか行えず、相応の待機時間がかかるケースが多い。

今回の発表では、臓器摘出が死後か否かへの言及はない。だが、死亡した囚人の遺体の状況の確認が当局に妨害されたとの報告もあるといい、「深刻な人権侵害の情報は今も続いている」と指摘。臓器の出所の情報が透明性に欠けるとし、中国側に国際的な独立組織による調査を求めた。一方、中国政府は「偽情報を使った誹謗(ひぼう)中傷だ」と否定し、調査を拒んでいる。

特別報告者は、国連人権理が国やテーマ別に人権侵害の調査を任命する専門家ら。政府や組織から独立した立場だが、現地調査が十分できないことも多い。今回の内容も正しいとは言い切れないが、「事実を否定するだけで調査に応じない」中国の姿勢は、数々の被害証言が出ているウイグル族への強制収容、労働問題への対応とも重なる。

中国の臓器移植の現状はどうなっているのか。中国メディアによると、移植数は近年、年1~2万件程度を推移。2013年から始まったドナー登録制度の登録者数は今年4月、累計315万人を超え、これまで3万3000人強が臓器提供したと報じられた。現在は自発的なドナーの臓器が移植手術の大半を占めるとする一方、15年には死刑囚からの移植用臓器の摘出停止が発表され、現在は深刻なドナー不足が叫ばれる。

だが「実態はまるで異なる」というのは、この疑惑を調査する「SMGネットワーク」(東京)の事務局長でジャーナリストの野村旗守氏だ。「海外からの渡航移植を含め、臓器が有り余っているかのように安価で迅速な手術が数多く行われている」と話す。

待ち時間は「最短数日」

一般に適合臓器が見つかる割合は血縁以外は1割未満と低い。臓器は冷凍保存できず摘出後すぐの移植が必要だ。「移植大国」の米国でも心臓で8カ月、腎臓で3年1カ月程度の待機時間を要し、ドナー数の少ない日本では10年以上待つこともあるという。

だが中国では、移植患者の平均待機時間は1~4週間と短く、最短数日のケースもある。値段も数年前までは米国の1割程度だったといい、「常識では考えられない早さと安さ」と野村氏。こうした優位性から日本を含む海外から渡航移植者が後を絶たない。

手術数も実態を表していないとの指摘がある。カナダの元閣僚の弁護士や米国の記者らが16年に発表した報告書では、病床数や稼働率などから「最低でも年6万~10万件」と推計。当局が公表する年1万件程度とは大きな食い違いがある。

そこで疑問なのが「世界有数」の移植手術環境を支える臓器の出所だ。「世界的に少ない中国の国内ドナーだけで、(公表の)年1万件を支えるのは不可能」と話すのは、カナダや英豪などの弁護士や医療関係者でつくる「中国の臓器移植乱用停止国際ネットワーク」(ETAC)メンバーの鶴田ゆかり氏。年数千人とされる死刑囚の臓器を使っても足りないといい、「別に大きな調達先があるとしか思えない」と話す。

疑惑の核心に迫ったとされるのが、18~19年に英ロンドンであった「民衆法廷」だ。国際機関がすぐに調査できない人道犯罪を裁定する民間の模擬裁判だが、判事団の議長を旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷を担当した元検察官、ジェフリー・ナイス卿が務めた。

法廷では執刀医や被害者ら約50人が証言。17年に逮捕状もなく拘束された新疆ウイグル自治区出身の男性は血液検査などを無理やり受けさせられ、結果も開示されなかった。他の囚人も同じ検査を受けさせられていたとの証言もあった。拷問されていた点を踏まえ、判事団は「これは医療措置ではなく、ドナーの臓器状態の検査だ」と認定した。

英国に亡命した同自治区出身の外科医で、死刑囚の臓器を摘出させられた経験を語ったエンヴァー・トフティ氏は自治区内の空港で16年頃、「人体器官運輸通道」と書かれた緑色の「通路」が存在したと言及。新疆にしかない移植用臓器を運ぶ優先通路だとし、「周辺で大量の臓器が生み出されている証拠」と語った。

囚人のほとんどが臓器摘出前後に何らかの形で死亡したとされ、法廷では「当局が証拠を隠蔽している」という趣旨の証言も出た。判事団は臓器狩り疑惑に関する直接証拠が乏しいことは認めつつも、移植までの待機時間が極端に短いなど、中国の移植環境の特殊性を認定。「中国の臓器強制摘出はかなりの期間、極めて多くの良心の囚人から行われていると確信する」と最終裁定を下した。

15年に当局が停止を発表した死刑囚からの臓器摘出は「停止した証拠が見当たらず、今も続いていると確信する」と指摘。また、最大の被害者は法輪功関係者だとし、関係者証言から近年はウイグル族が対象になっていると断定し、多くが無実の囚人だと結論付けた。

鈍い日本の動き

裁定に法的な拘束力はないが、英BBC放送やロイター通信などの主要メディアが報道するなど、反響を呼んだ。鶴田氏によると、民衆法廷を契機に疑惑を追及しようとする動きが広がりつつある。

今年春、米上下両院の議員が超党派で中国を念頭にした「臓器狩り停止法案」を提出。収奪臓器の移植に協力した企業や医療関係者を規制する内容で、鶴田氏は「通過すれば画期的。国際社会が動くきっかけになる」と話す。

これまでにイスラエルや台湾、イタリアなど10近い国・地域が渡航移植を取り締まる法案などを可決してもいる。主に中国で違法に売買、収奪された臓器を使わせないのが目的だ。米下院やカナダ、欧州議会では中国に対し、良心の囚人からの臓器収奪の停止を求める決議や宣言も出されている。

一方、日本の動きは鈍い。08年、国際移植学会が採択した「イスタンブール宣言」では、移植ツアーの禁止や国内での移植手術の推進がうたわれた。だが移植手術の少ない日本に海外での渡航移植を規制する法律はなく、ブローカーなどを通じて海外で手術を受ける人は少なくない。

これまで地方議会では中国に良心の囚人の臓器収奪禁止を求めるなどの意見書が約90件出されたが、国会で法制化の動きはない。ただ、SMGネットの野村氏は「国際社会でウイグル問題への批判が強まるにつれ、国会議員の反応も変わってきている。日本も法整備や非難決議を考える時期だ」と訴えている。

(桑村朋)


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