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元三井住友信託銀行副社長 大塚明生 社会環境と表裏一体の歴史『猫が歩いた近現代 化け猫が家族になるまで』

『猫が歩いた近現代 化け猫が家族になるまで』真辺将之著(吉川弘文館・2090円)


子供時代、わが家には多くの猫がいた。餌をやっているうちに居ついた野良猫や、拾ってきた捨て猫だった。なぜそんなことになったのかといえば、猫がかわいかったからとしか言いようがない。

ところが本書の帯には、<猫って、ずっと可愛(かわい)がられていた訳じゃなかったんだ><あなたの知らない、「ちょっと昔の猫」の話>とあるではないか。

江戸時代、猫は化け猫のイメージが強く、忠義な犬とは異なり道徳的ではない邪気を含んだ生き物として捉えられるのが普通だった。ところが文明開化により化け猫のような非合理的なものが否定の対象となったのが猫イメージの近代化の萌芽(ほうが)。その代表的事例が『吾輩は猫である』で、「吾輩」は化け猫のような存在ではなく、普通の猫のままで描かれ、装丁も<その後の「かわいい猫」像成立のメルクマール>となったという。

猫の立ち位置は世相の変化につれて変貌し、今ではかわいい猫像が確立し家族にまでなったことが、本書では興味深く描かれている。

ちなみに、中世の西欧絵画で子供は「小さな大人」として描かれていた。それが「可愛い子供」として描かれるようになったのは、子供を労働力として扱わなくてよくなった経済力の向上が背景にある。猫の家族化は著者が言うように、現実の家族の空洞化と表裏一体の側面と同時に、経済力の向上も要因だろう。

猫は、このような社会環境の変化の影響を受けてきたが、格差拡大、ウィズ/アフターコロナ、AI(人工知能)問題という新たな難問の出現で、社会そのものがこれまで以上に大きな変化を余儀なくされる中、猫の家族化の先にはどんな変化があるのだろうか。

『100年前から見た21世紀の日本 大正人からのメッセージ』大倉幸宏著(新評論・2200円)


<働き方改革、政治家の資質低下、女性の活躍、なりすまし詐欺>などは大正時代から議論されていた。本書を読むと<この一〇〇年で何が変わり、何が変わっていないのか>を考えさせられる。

課題が解決しないのは、変わらない国民性にもあるのだろう。変えるべきものへの根本的対応策を講じないと、今後も課題解決は一筋縄ではいかないだろう。

大塚明生さん

おおつか・あきお 昭和28年生まれ。京大法学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。平成23~27年、副社長。31年3月退社し、Ohtsuka Associates Japan代表取締役に。『逆境のリーダー』『バンカーズ・コード』など著書多数。


大塚明生さんのコラムは今回で終了します。


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