パナ広告、消えた「きれいなおねえさん」 多様性尊重

    個人の性別や年齢、国籍、価値観などの多様性(ダイバーシティー)を尊重する考え方が企業の広告などに浸透してきている。美容家電や不動産情報サイトの広告では、世論の変化や社会問題に寄り添う製品、サービスとして発信。ダイバーシティーに対する姿勢が雇用や人事といった企業内の取り組みにとどまらず、消費者の共感を得るためのメッセージになっている。

    パナソニックの美容家電ブランドのポスター。幅広い年代の男女が起用されている(同社提供)
    パナソニックの美容家電ブランドのポスター。幅広い年代の男女が起用されている(同社提供)

    年齢、性別問わず

    ヘアドライヤーなどの美容家電で国内シェアトップのパナソニックは、7月発表したブランド広告でダイバーシティーを意識した表現を取り入れた。ポスターや動画には主要ターゲットの若い女性だけでなく、幅広い年代の男女を起用。ピンクを基調にしていたブランドロゴは白地に一新し、売り場などでの販売促進活動にも色調を取り入れる。

    同社の美容家電の広告はキャッチコピーも時代とともに変遷してきた。平成4年以降、「きれいなおねえさんは、好きですか。」で若い女性を中心に認知度を高めたが、22年からは女性の社会進出に合わせ「忙しい人を、美しい人へ。」に。今回のキャッチコピーは年齢、性別を問わず訴えかける「美しさは、私の中にある。」とした。

    同社の担当者は「ドライヤーなどは男性にも支持されてきたが、『女性向けのイメージで買いにくい』という意見もあり、多様性を尊重する社会の変化に合わせた」とする。

    同性カップル起用

    不動産・住宅情報サイトを運営するライフルは5月に放送を開始した企業CMで、フィットネスインストラクターの高齢女性やスウェーデン出身の落語家、子育てをする同性カップルらを起用。童謡「オバケなんてないさ」の歌詞を「しなきゃなんてないさ」に替えて流しながら、既成概念に捉われないそれぞれの生き方を描いている。

    同社は高齢者や外国人、同性愛者らが賃貸住宅への入居を断られやすい「住宅弱者」とされている現状を問題視。ダイバーシティーに理解のある不動産業者を検索できるサイトや、事業者向けの接客アドバイスなどを展開している。

    同社の担当者は「CMは『多様な人の多様な生き方をサポートしたい』という思いで制作した。視聴者からは共感の声が寄せられている」とする。

    優秀な人材期待

    企業にダイバーシティの考え方を取り入れたマーケティング戦略を助言するコンサルティング業「アンプリファイアジア」(東京都)の白石愛美(えみ)代表取締役は「欧米では人事など企業内の取り組みだけでなく、製品広告などでもダイバーシティーに関するメッセージが盛んに発信されてきたが、日本では出遅れていた」とする。

    白石氏によると、ダイバーシティーに関するマーケティング戦略での問い合わせ件数が今年1~6月は前年同期比で倍増。2月の東京五輪・パラリンピック組織委員会臨時評議会での森喜朗元会長による女性蔑視発言以降、急増したという。

    白石氏は「ダイバーシティーについての発信は消費者の共感を得たるために重要だが、企業活動が伴わないと伝わりにくく、押し付けるような表現はSNSで炎上することもある。社会の中での企業の存在価値をどう見せていくかが重要」とする。

    一方、日本経済団体連合会が昨年8~9月に会員企業273社から回答を得たダイバーシティーに関する意識調査によると、ダイバーシティーの推進による経営への効果を明確に定めている企業(全体の61・8%)が期待する項目は「優秀な人材の維持・獲得」が121件と最多に。

    次いで「プロダクト・イノベーション」(商品の技術革新)が102件となり、女性や障害者らの視点を生かして製品やサービスを開発した事例が挙げられた。(山本考志)


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