アフガニスタンの民主政権が米軍撤収の目前に崩壊したことで、在韓米軍の行方に注目が集まっている。バイデン米大統領は、日本や韓国などの同盟国とアフガンは「根本的に違う」と不安払拭に努めるが、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は最近、米韓合同軍事演習を批判する中で在韓米軍の撤収まで要求。北朝鮮と米韓の〝終戦〟がほど遠い現実を突き付けている。
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2001年9月11日の米中枢同時テロを受けて当時のブッシュ(子)米政権が翌月に始めたアフガン戦争は約20年の「最も長い戦争」と呼ばれる。だが、同政権で国務長官を務めたコンドリーザ・ライス氏は18日付の米紙ワシントン・ポストへの寄稿で、次のように指摘した。
「われわれにとって最も長い戦争の地は、アフガンではなく韓国だ」
朝鮮戦争は休戦にすぎず、1950年の開戦から71年たった今も韓国に約2万8千人の米兵が駐留する現状に触れて朝鮮半島の安定に果たす米軍の役割の重要性を強調したものだ。
韓国には50年1月、当時のアチソン米国務長官が韓国を外す形で、日本までを防衛ラインだと宣言したことが同年6月の北朝鮮の侵攻を許し、戦争の辛酸をなめたとの苦い記憶がある。
バイデン政権は韓国や欧州で米軍の関与を縮小させる考えがないと強調するが、韓国紙は、アフガンの事態は「対岸の火事ではない」などと盛んに論じている。トランプ前大統領は実際、海外に駐留する米軍の削減を進めようとした。
そうした中、正恩氏の妹、金与正(ヨジョン)党副部長が26日まで行われる米韓演習を批判する目的で10日に発表した談話が注目されている。与正氏は米側に韓国からの兵器撤去を要求した上で「米軍が南朝鮮(韓国)に駐屯している限り、情勢を悪化させる禍根は絶対に除去されない」と強調した。「委任」による発表としており、正恩氏の意思を反映した談話を意味する。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、正恩氏が2018年に訪朝した韓国側特使団に米韓演習の実施を「理解する」と述べたと説明。正恩氏が在韓米軍の撤収までは求めていないとの前提の下で同年、南北首脳会談や史上初の米朝首脳会談が実現した。祖父の金日成(イルソン)主席や父、金正日(ジョンイル)前総書記の時代から、北朝鮮は米韓側に米軍駐留の必要性を認めるという姿勢を示してきた。
正恩氏は今回、この〝建前〟をかなぐり捨て、非核化交渉の条件として在韓米軍の撤収を迫るという〝本音〟をさらけ出した形だ。
韓国当局は今月、北朝鮮の指示を受けて米最新鋭戦闘機の導入反対運動などをしたとして、活動家らを逮捕。正恩政権が対話攻勢の裏で米軍撤収につなげる世論工作を仕掛けていた実態が浮き彫りになった。
アフガンの米軍撤収と前後し、南北・米朝対話の前提を覆すように在韓米軍の撤収論に踏み込んだ北朝鮮の姿勢は、非核化協議の今後の難航を物語る。韓国に亡命した北朝鮮の黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元党書記は「北朝鮮は韓米同盟さえなくなれば、いつでも戦争する。それを防がなければならない」と、韓国の識者に語っていたという。(ソウル 桜井紀雄)