新型コロナウイルスの感染拡大により医療逼迫(ひっぱく)が深刻化する東京都で、自宅療養中に症状が悪化した患者らに対応する「酸素ステーション」の運用が本格化している。自宅療養や入院調整中などに死亡するケースが相次ぐ中、容体を見極めながら重症化を防ぎ、適切な治療につなげる。都はさらなる病床確保に向け医療機関の実態把握も進め、医療体制の立て直しを急ぐ。
渋谷区の旧国立児童館「こどもの城」にある酸素ステーション。23日夕から運用を始め、1日10人前後が運び込まれている。パーティションで仕切られた大広間に130床のベッドが並び、常駐する医師2~3人、看護師25人が主に酸素濃縮器(酸素マスク)による酸素投与などを行う。
栄養補給の点滴やせき止めの薬、解熱剤などの処方も可能だが、「本格的な治療は行えず、学校の保健室と同じようなレベル。患者に安心してもらうための施設」と担当者。2~3日の滞在を想定し、症状が改善すれば自宅や宿泊療養に切り替える。悪化した場合は入院先を調整する。
都の酸素ステーションは12カ所に計約250床を整備。症状別に3段階に分け、こどもの城は最も軽い患者を受け入れる。「頭が割れるほど痛い」「一晩中せき込んでいて苦しい」といった症状で救急車を呼ぶケースも多く、救急隊が入院の必要はないと判断した上で搬送される。
残りの11カ所はいずれも都立・公社病院内に設けられ、すぐに入院が必要で病床の空きを待つ重症者用の36床、重い中等症までの80床余りを見込んでいる。
公社荏原病院(大田区)は主に中等症用の40床を運用し、1日5人前後を受け入れている。中高年や基礎疾患があるなど重症化リスクの高い患者に酸素投与に加え、肺炎治療なども行う。重症化すれば、院内の集中治療室(ICU)などに移す。同院担当者は「病床逼迫の非常事態。あくまでも患者の一時的な受け皿に過ぎない」と話す。
都の担当者は「同じ酸素ステーションでも役割はさまざま。都や保健所、救急隊によるトリアージで適切な治療につなげ、自宅療養中に亡くなる事態を防ぎたい」と強調。今後の感染状況次第で300床前後の増設も検討するという。
都内の病床使用率は約7割だが、自宅療養や入院調整中などの患者は計3万5千人を超える。入院調整に1週間かかる間に死亡するケースが出るなど、病床の逼迫度は数字以上に深刻さを増している。
都は18日に現在確保済みの5967床から7千床まで増やす方針を示したほか、23日には感染症法に基づき、厚生労働省とともに、全ての医療機関に病床確保と最大限の患者受け入れなどを要請した。
病床を増やす上での最大のネックは、医師や看護師らの人員不足とされる。コロナ患者を受け入れられない病院や診療所には、酸素ステーションへの人員派遣を求めるなど、医療界全体での取り組みを促す。
都に病床確保を申告しながら、実際の患者受け入れには消極的な医療機関の存在が逼迫度を高めているとの指摘もあり、都は実態調査に乗り出した。
都幹部は「病床確保と合わせ、一部の医療機関にしわ寄せがいかないよう負担を公平に分かち合う体制を目指したい」としている。