終戦から76年が過ぎ、戦争や空襲の体験者が高齢化する中で、東京都墨田区のすみだ郷土文化資料館では、改めて先の大戦に関する基本的なデータを分析して整理し、継承していこうとする動きを進めている。戦争時の混乱で、空襲などの被害状況については今も解明されていないことが多く、より正確で細かな状況を掘り起こすことが狙いだ。
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昭和20年3月10日未明から、約300機のB29が墨田区や江東区などの下町地区を襲った東京大空襲。一夜で10万人以上もの人が亡くなった大規模な被害に対して、被害の実態や、遺体がどう扱われたかなど、明らかになっていないことは多い。
すみだ郷土文化資料館の石橋星志学芸員(39)は国や都、民間、米軍などが作成した複数の東京大空襲の被災地図を比較し、被災者の証言も照らし合わせて墨田区内の避難経路図を作成。昨年12月から同館で企画展を開催した。
今回、それぞれの地図を比較すると、終戦直後に第一復員省(旧陸軍省)がまとめた「全国主要都市戦災概況図」は比較的信頼度が高いとされていたが、戦前の街並みが残るエリアも被災地域に組み込まれているなど誤りもあった。都が昭和28年に発行した「東京都区部焼失区域図」は、参考資料や作られた経緯に不明な点が多い。米軍が作成した被災地図は航空写真を基にしているため、大ざっぱな点があるという。
こうしたデータの検証はこれまでほとんどされてこなかった。複数を照らし合わせることで、より具体的で正確な被災状況が浮かび上がってきたという。
石橋さんは「もとの記録を見直し、体験者の証言を合わせることで全体像が見えるようになる」と話す。
検証活動の背景には、戦争体験者の高齢化が進み、実態解明が難しくなりつつあることがある。同館では、これまで区内を中心に聞き取りなどを行ってきたが、現在は要望があれば近隣の区の人からも話を聞き始めているという。
「聞き取れる範囲には限界があるが、今後のためにも地域に詳しい方などに協力してもらえる体制を作っていきたい」と石橋さん。
新たな証言を集めると同時に、これまでの証言の見直しなども行っており、「体験者がいなくなっても戦争や空襲を追求することができる仕組みを研究者やメディアは作っていく必要がある」と力を込めた。
同館では、空襲体験者の当時の記憶をもとに描いた東京大空襲の絵を常設展で展示している。(大渡美咲)