夜間中学の多くは、生徒たちの学びの成果である文集を毎年作成しています。大阪府東大阪市立意岐部中学校夜間学級の令和2年度の文集「おとなの中学生」に掲載された3人の現役生や卒業生の作文などとともに、それぞれの思いを紹介します。
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/OOUCDALLIFIAFHOL5TC7BKBKBY.jpg)
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/FOFFSXHPSBMRDHTHLJ3HXZ7J6I.jpg)
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/I4WOAZMTXFKSPJ44M6GU7Q4WAQ.jpg)
生き方変わった 今が青春 門脇勝さん(77歳)
存在を否定するような言葉を吐いた先生を憎み、学校が嫌いになった。ほとんどまともに授業を受けずに中学校を卒業し、その後は働きづめの人生。だが高校へのあこがれは門脇勝さん(77)の胸にずっとあった。近年、法律が整備されて形式的に中学校を卒業した人も入学が認められるようになり、一昨年4月、夜間中学生となった。
「高校に行く学力をつけたいという簡単な気持ちだった」と振り返る。「『先生』とつくものは全部敵だと思っていた」門脇さんに、夜間中学の先生たちは「一人の人間として接してくれた。自分のことを思ってくれている先生かどうかは本能的にわかる。こんな先生がおるんやと驚いた」。次第に敵意が敬意に変わった。
今も週に二日、知的障害者のグループホームで夜勤をしており、その日は1限目だけ出席して仕事へ向かう。「一つ一つ教えてもらうことが身になっていく。受けられる授業は全部受けたい」と貪欲だ。
級友の学ぶ姿勢に刺激を受けたことも大きい。年齢も国籍も異なる彼らの背景や日本で暮らしていくためにどんな思いで学んでいるのかを知った。「仲間から生き方を教えてもらった」と感謝し、「先生も仲間も僕の財産。いろんな財産が増えていく」と話す。
一昨年の自分の入学式では人目から隠れるようにしていたが、今春の入学式ではスーツ姿で新入生に祝辞を贈った。「開き直ったというか、顔も名前も出して、夜間中学のことをもっと知ってもらいたいと思うようになった」。学びたい人が学びたいときに学べるように、各地に夜間中学が増えてほしいからだ。
「夜間中学に入学して、生活も考え方も生き方もすべてが変わった。77歳の今が青春真っ只中。何が楽しいって、学校に行くのが楽しい。中学時代の自分が聞いたらびっくりするやろね」。笑顔がはじけた。
9年目、出会いも刻む 林学強さん(74歳)
林学強さん(74)の日に焼け皺が刻まれた手は、長年の農作業の証し。中国で学校に通えたのは小学4年の途中までで、それからずっと働き続けた。その手に今、ペンを握り、ゆっくり文字をつづっていく。
平成18年、中国残留邦人2世の妻と日本にきた。空気はきれいで、町は清潔。都会の大阪の暮らしは便利だった。「天国に来たのかなと思った」と笑う。ただ、日本語がわからないため「困ったことはたくさんあった」。とりわけ役所や病院に行くときが難題で、友人らに頼っていた。
日本語を勉強したかったが、どこに行けばいいのかわからない。親戚に教えてもらった長栄中学校夜間学級に25年4月に入学。長栄の閉校後は意岐部に通う。
夜間中学ではひらがなから習い、読むことも書くこともできるようになった。「日本語は難しい」が、「さといも」のように知らない言葉を学ぶのは新鮮と喜ぶ。出会いも多い。いろんな国の人だけでなく、広大な中国で故郷の福建省にいたならば遠く離れていて出会うこともなかっただろう黒竜江省の人とも知り合えた。「学校に来るのが今の一番大きな楽しみ」だ。
来春、大阪の夜間中学で在籍できる上限の9年を迎える。「健康に気をつけて卒業するまで毎日頑張って来たい」
将来の夢へ一歩 デビッド・マイケル・カウレス・リベラさん(18歳)
フィリピン人のデビッド・マイケル・カウレス・リベラさん(18)は今春、意岐部中学校夜間学級を卒業し、大阪府立布施北高校に通う。両校は隣接しており、デビッドさんはたまに母校に顔を出して先生らに近況を知らせる。それだけ思い入れのある場所だ。
平成30年2月、日本で働く母親に呼び寄せられた。学齢期で昼の中学校に編入したが、日本語がわからないため授業についていけず、友達もできない。次第に足が遠のき、そのまま卒業した。
アルバイトはしたが、将来について自分でもどうしていいのかわからなかった。母から夜間中学のことを聞き、もう一度勉強しようと決心する。「お母さんは日本語がすごく上手で、仕事も頑張っている。お母さんみたいになりたい」
令和元年9月に入学。夜間中学の先生たちはやさしく、日本語をいちから丁寧に教えてくれた。友達もできた。ブラジル人の級友が一足先に布施北高に入学し楽しそうに過ごしている姿を見て、自分も高校に行きたいと思うようになる。日本語だけでなく他の教科の勉強にも力が入った。
今、高校生活を満喫する。何より将来のことを考えられるようになった。「やりたいことがたくさんある。明るい道になった」とはにかむ。
「夜間中学に通えて本当によかった」
◇
「夜間中学」に関する体験談やご意見、ご感想を募集しています。
住所、氏名、年齢、電話番号を明記していただき、郵送の場合は〒556-8661(住所不要)産経新聞大阪社会部「夜間中学取材班」、FAXは06・6633・9740、メールはyachu@sankei.co.jpまでお送りください。