脱炭素は道半ば スガノミクス、携帯値下げ成果

    菅義偉(すが・よしひで)首相(自民党総裁)が3日、総裁選への不出馬を表明し、16日で発足1年を迎える菅政権は幕を下ろす。新型コロナウイルス禍の長期化を予想できず期待された景気の「V字回復」には失敗したが、携帯電話料金の値下げなど消費者に身近な個別政策で一定の実績を上げた。一方で、看板政策に掲げた脱炭素化やデジタル化などは道半ばのまま政権を去ることになる。

    自民党総裁選への不出馬を表明する菅義偉首相=3日午後、首相官邸(春名中撮影)
    自民党総裁選への不出馬を表明する菅義偉首相=3日午後、首相官邸(春名中撮影)

    異例のスピード感

    首相が政権の看板政策に掲げたのがデジタル化だ。コロナ禍では国民一律10万円の特別定額給付金や、雇用を守る企業向け助成金などでオンライン申請のトラブルが続出。デジタル化の遅れが国家的課題に浮上した。

    昨年の総裁選で「デジタル庁」設置を公約してから1年足らず、今年9月1日の発足は「霞が関の常識ではありえないスピード感」(政府関係者)だった。各省庁のシステム予算を一元管理して効率化を図り、協力を渋る省庁に対し勧告ができる強い権限も与えた。

    公的給付金の迅速支給のため令和4年度には預貯金口座をマイナンバーと一緒に事前登録してもらう制度も開始する予定だ。ただ、権限を奪われる各省庁の抵抗も予想され、旗振り役の首相の退場で求心力を保てるかは見通せなくなった。

    「絵に描いた餅」

    首相が就任直後に周囲を驚かせたのが、昨年10月の所信表明演説で宣言した2050年の脱炭素化だ。地球温暖化対策に積極的なバイデン米政権の発足前に駆け込み表明した側面が強いとはいえ、温室効果ガスの排出削減に消極的だと国際社会の批判を受けていた日本が取り組みを加速する意思を世界に発信できた意味では大きな前進だった。

    今年4月には30年度の温室効果ガス排出量の国別削減目標(NDC)を「13年度比46%削減」にすると表明し、これまでの26%削減から大幅に上積みした。

    目標達成に向けた指針となる新たな地球温暖化対策計画では家庭部門でエネルギー由来の二酸化炭素(CO2)排出を30年度に13年度比66%削減するなど意欲的な計画も示したが、具体的な手段の提示は不十分で、「絵に描いた餅」との批判もある。CO2を排出しない原発の新増設やリプレース(建て替え)の議論も見送られ、発電コストが高い再生可能エネルギーのさらなる普及に伴う国民負担の増大も懸念される。

    処理水放出も決断

    首相は、平成25年に議論が始まって以降、長く懸案となってきた東京電力福島第1原発の処理水処分問題でも今年4月、海洋放出する決断をした。

    東京電力は海底トンネルを掘って第1原発の沖合1キロの海中に処理水を放出する計画で、処理水処分の透明性を確保するため国際原子力機関(IAEA)に安全性評価を行ってもらう道筋もつけた。

    ただ、風評被害を懸念する地元の漁業関係者らの反発は根強いものがあり、理解を得る努力は次期政権にゆだねられる。

    消費者目線を追求

    大きな国家ビジョンを掲げるよりも、「国民から見て当たり前のことをする」(首相)ため個別政策で結果を出すことを優先してきたのが首相の経済政策「スガノミクス」の特徴でもあった。この1年間、最低賃金の引き上げやオンライン診療の拡大など消費者に分かりやすい課題の解決に取り組み、国民から支持を得ようと努めてきた。

    なかでも話題を集めたのは首相が官房長官時代からこだわってきた携帯電話料金の値下げだ。政権発足直後の昨年10月、総務省が新たな行動計画を発表したのを皮切りに、携帯電話各社が今年3月から割安な料金プランの提供を開始した。同省は6月時点で、年間の負担軽減額が約4300億円に上ると試算しており、一定の成果を上げた形だ。

    また、首相が総務相時代に発案して平成20年から始まったふるさと納税制度の令和2年度の寄付総額は2年ぶりに増加。元年度比1・4倍の6724億9000万円となり、過去最多を更新した。


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