眠るのが下手なのか、どうでもいいときはぐうすか眠れるのに、夜、いざベッドに入ると途端に頭が冴えてきてしまう私にも、「梅屋」のようなところがあればいいのになと思う。
梅屋は大島真寿美さんの小説『かなしみの場所』に出てくる雑貨屋のことだ。主人公の果那は夜を徹して商品を作ると梅屋に持っていき、その奥にある小部屋でひと眠りする。実は果那は寝言が原因で夫と離婚していた。「果那ってさ、眠っていても答えるんだよ、ちゃんと」「きみの寝言は尋常じゃない」と言われた。家では両親に聞き耳をたてられているかもしれないと不安になって眠れずにいたのだった。
ある日、果那の寝言を聞かせてほしいという青年が梅屋を訪れる。なんでも果那は幼いころ誘拐された経験があるらしく、そのときのことを寝言で話していたという。ずっと気になっていた誘拐事件。およそ平穏な日常が淡々とつづられるこの物語の鍵になっている。真相を探ろうと行き着いた先は―。
なんて書くとミステリー小説みたいだけれど『かなしみの場所』は決してミステリーではない。人と人とのつながりをやわらかく描いたヒューマンドラマだ。両親をはじめ梅屋の人々、母方の叔母やいとこ、そして誘拐犯。登場人物には情があり、果那はその優しさや怒りや悲しみにふれ、いとしい日々を過ごす。
ところで、「かなしみ」は「悲しみ」「哀しみ」とともに「愛しみ」とも書く。もしかしたらタイトルの「かなしみ」は「愛」のいとしむやいとおしむの意味なのかもしれない。
どのページも居心地がよく、この世界でなら私でも熟睡できそうな気がした。
京都市下京区 夏迫杏(28)
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