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【日曜経済講座】脱炭素で問われる賢いエネ戦略 石炭・LNGの高騰 論説委員・井伊重之

国際的に脱炭素のうねりが高まる中で、石油や石炭、液化天然ガス(LNG)などの化石燃料の価格が高騰している。世界的な需要の回復に加え、温室効果ガスの排出削減に向けて化石燃料の新規開発を抑制する動きが強まり、価格上昇に拍車をかけている。

日本も2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルに取り組む方針を決めたが、現状は化石燃料を使う火力発電が電源全体の8割を占める水準にある。脱炭素に向けて円滑に移行する道筋を誤れば、海外からのエネルギー調達に支障をきたす恐れがあり、日本独自の賢い資源・エネルギー戦略が問われている。

国際エネルギー機関(IEA)が今年5月にまとめた脱炭素の工程表が世界市場を揺さぶっている。50年に世界で脱炭素を実現するため、「石油や天然ガスなどの化石燃料を採掘する新規投資を即時停止すべきだ」と求めたからだ。

ガス業界関係者は「昨年までIEAは、世界で需要が高まっているLNGには安定的な開発投資が必要との立場だった。それが一転してすべての新規投資を中止しろというのだから様変わりだ」と驚く。このため、経済産業省は「世界市場に混乱を与える」としてIEAに抗議したという。

このIEAの工程表にLNG市場は敏感に反応した。世界的な需要回復も加わり、8月上旬時点のアジア市場のスポット価格は100万Btu(英国熱量単位)当たり約17ドルまで上昇し、安値に沈んでいた前年同期の4倍近くまで急騰する場面があった。

石炭も上昇傾向が顕著だ。発電用の石炭価格は、指標となる豪州産のスポット価格が8月下旬で1トン当たり170ドル前後まで値上がりし、08年7月に記録した史上最高値に迫る水準に達した。インドネシア産の輸出規制も影を落としているが、IEAの工程表が大きく影響したのは間違いない。

こうした価格高騰は長期化する恐れがある。従来はLNG価格が上昇すれば米国産シェールガスの新規採掘が活発化し、市場原理でLNG価格は自然に下がってきた。だが、今回の高騰局面では、米国内のリグ(新規の油田開発に使われる採掘装置)の数は新型コロナウイルス禍前を下回ったままだ。

業界関係者は「今は化石燃料を採掘する新規融資が認められるような環境にはない」と指摘し、今後もシェールガスの新規開発は進まないだろうとの見方を示す。上流部門の投資を抑制する動きが強まれば、資源輸入国の日本は厳しい立場に追い込まれるのは必至だ。

また、経産省は先月、政府のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の改定案をまとめた。そこでは30年度の電源構成も6年ぶりに見直して、太陽光などの再生可能エネルギー比率を約4割まで高めて主力電源化し、原発と合わせた非化石電源比率を全体の6割とする方針を打ち出した。

その一方で化石電源比率は4割に引き下げ、LNG比率は全体の2割に減らす電源構成目標とした。LNGは19年度実績で38%を占める現在の主力電源だが、半分近く引き下げることになる。これに伴い、30年度のLNG需要も13年度に比べて4割近く落ち込むと予測した。

だが、この急激なLNG削減方針に資源国側が反発。わが国の電力会社やガス会社などに対し、「今後の供給は中国を優先する可能性がある」と警告してきたという。中国は石炭からLNGへのエネルギー転換を急速に進めており、今年は日本を抜いて世界最大のLNG輸入国となる見通しだ。日本は今後、中国より不利な条件で長期契約を迫られる事態も懸念される。

わが国では、再生エネの拡大に対する期待が大きい。ただ、再生エネは発電量が天候などに左右され、悪天候時には稼働できないなどの課題も抱えている。この発電量の変動を補うためには火力発電も必要となる。当面は火力発電に依存せざるを得ないのが現実である。

今年1月には強い寒波に見舞われて世界各国がLNG調達に走る中で、西日本地域ではLNG需給が逼迫(ひっぱく)し、電力供給も綱渡りを強いられた。全国からLNGを緊急融通することで何とか乗り切ったが、このときはアジア向けのLNGスポット価格は史上最高値を記録した。

日本のエネルギー政策は脱炭素に関心が集まっているが、足元の主力電源であるLNGや石炭への目配りも怠ることはできない。隣国とガスパイプラインがつながる欧州や資源国である米国と日本は国情は異なる。欧米の受け売りではない、独自の道を示す必要がある。


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