衛星電波妨害 宇宙領域は中露の周回遅れ

    防衛省が人工衛星の電波を妨害する研究に着手したことが明らかになった。衛星通信などを麻痺(まひ)させれば敵に壊滅的損害を与えられ、攻防の鍵も握るだけに研究の意義は大きいが、日本は宇宙領域で先行する中国とロシアの周回遅れで、人材育成を中心に前途も多難だ。

    東京都新宿区の防衛省
    東京都新宿区の防衛省

    「宇宙利用で優位に立てば地上戦闘を利する」。これは今や各国軍の共通認識になりつつある。

    衛星を活用すれば地球上のどこでも観測や通信、測位ができ、中露は軍事的優位性確保に向け、他国の宇宙利用を妨げる能力を重視する。①衛星と地上の通信を妨害する装備②衛星を破壊するミサイルやレーザー兵器③衛星をアームで捕獲する攻撃衛星-の開発や試験を活発化させている。

    中露に対抗し、政府は中期防衛力整備計画(令和元年度から5年度まで)で宇宙での自衛隊の能力強化の柱に「電磁波領域と連携して、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を構築」と掲げた。中露の①に匹敵するもので、衛星電波妨害の研究で始動する。

    ただ、周回遅れを挽回するスピードはない。衛星電波妨害の研究がまとまるのは今年度末で、研究結果を踏まえた装備を5年度までに保有し、中期防で明示した「妨げる能力の構築」を遂げることは不可能とみられる。各国軍の妨害を研究する手法も「バット(妨害機)の研究をするのにグラブ(受信機)の研究から始めるようなものだ」(自衛隊幹部)との批判がある。

    中期防は宇宙に関して人材育成も柱に掲げ、防衛省幹部は「周回遅れを助長する課題だ」と指摘する。

    航空自衛隊は宇宙作戦隊を発足させたが、当面、宇宙監視が任務だ。衛星電波妨害の研究主体が海自であるように、宇宙での作戦能力の強化には陸海空3自衛隊と防衛装備庁を挙げた取り組みが欠かせない。

    それらの調整を担う防衛省のキャリアと呼ばれる総合職の責任が大きい一方、宇宙に精通するキャリアは皆無といっていい。キャリアは多岐にわたる部署を2年前後で渡り歩き、いったん宇宙を担当しても知識がついてきた頃にまったく別の部署に異動させる「人材の積み木崩し」を繰り返していることに原因がある。

    宇宙領域は専門性が高い上、技術革新が速く、各国の動向も日進月歩で変転し、万能型のキャリアでは対応できない。政策から運用、技術まで精通し、防衛省のみならず、政府全体を統率できる専門的なキャリアを育成する人事制度を取り入れることが急務といえる。(半沢尚久)

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