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【家族がいてもいなくても】(703)進化に身をゆだねながら

パソコンの具合が悪い。

イラスト・ヨツモトユキ
イラスト・ヨツモトユキ

起動して数秒でフリーズ。つまり動かなくなる。

でも、1分ほどたつと、ピン、という音とともに動き出すので、ま、いいか、と我慢している。

壊れる前兆かもしれない。

いや、パソコンは勝手に更新して、突然、直る気もする。

そう信じて、パソコンの負荷を軽減しようとせっせとファイルやアプリケーションの整理をしている。

そんなわけで、分からない用語をいちいち調べるのだけれど、次々「なんのこと?」というのが出てくる。

それを検索すると、その説明の中でまた分からない言葉に遭遇してしまう。

「OS」とか「Ctrl」とか、年中見たり聞いたりしている基本の意味さえちゃんと分かっていなかったことにも気付いてしまった。

そんなことを繰り返していたら、あの日からの二十数年は、私にとって何だったのか、という思いに襲われてきた。

「あの日」とは、山手線の電車の中で「ゼロから始めるウィンドウズ95」の広告を見て、そのまま新宿のビルの講座会場に駆け込んだ日のこと。

フリーのライターで生計を立てていた私は、原稿用紙に手で書いて届ける時代から、ワープロ機で書いてファクスで送る日々を経て、パソコンで書いてメール添付する、という変遷を体験した。

思えば、わが家にパソコンが登場したときは、下手に触ったら「爆発」するような気がして怖かった。

そんなレベルから始まっての悪戦苦闘の長い長い道のりだった。

パソコンというものは、これまでの機器と違って、だんだん便利になるのではなく、どんどん複雑に面倒になっていく気がする。

そういう機器が他にあっただろうか、と思うほど次から次への変遷ぶり。

いずれはスマホの進化に吸収され、文章は、書くものではなく、スマホに向かって喋って記録するものになってしまうに違いない。

すでに小説は「読むもの」から、「聞くもの」へと向かっているし。

喋ってうまく伝えられないから、書いて伝えるしかない、と物書きになった私のようなタイプは、いずれは消えていく運命なのかもしれない。

となれば、私は時代の進化に割を食ったというよりは、いい時代に生き合わせたからこそ生きてこられた、ともいえる。

というふうにパソコン疲れで頭の中がこんがらがっていくばかりのこの頃である。

(ノンフィクション作家 久田恵)


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