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【書評】『京極夏彦講演集 「おばけ」と「ことば」のあやしいはなし』 異才の思考を平易に深く 

京極堂こと中禅寺秋彦が怪事件の「憑物(つきもの)落し」を行う「百鬼夜行」シリーズで注目を浴び、ミステリー小説史に大きな足跡を刻んだ京極夏彦。その本領はジャンル作家ではなく、妖怪をモチーフとする「百鬼夜行」「巷説(こうせつ)百物語」シリーズ、古典怪談を再構成した「江戸怪談」シリーズなどの創作を手掛け、研究者としても精力的に活動する妖怪と怪談のエキスパートだ。9本の講演録を収めた本書は、そんな異才の持論と見識が詰まった一冊である。

巻頭の第1談において、京極は「面白くない本はない」と断言し、自身の読書観を明かしている。言葉や文字の発明まで遡(さかのぼ)り、書物へのリスペクトに結びつける発想はいかにも個性的だ。しかし最も京極らしさが出ているのは、漫画家・水木しげるをテーマにした第2談と第3談だろう。熱心な水木ファンとして知られる京極は、約20年間にわたって水木と交流し、平成25年から令和元年にかけて刊行された『水木しげる漫画大全集』(全113巻)を監修した一番弟子でもある。水木の生き方と価値観、民俗学の概念だった妖怪をキャラクターと背景に具象化した手法などは、それ自体が伝記として興味深い。

第4談で妖怪や怪談の生まれるシステムが説かれた後、第5談では民俗学者・柳田國男と『遠野物語』、第6談では幕末から明治にかけて活躍した画家・河鍋暁斎(きょうさい)のことが語られる。『遠野物語』の現代語訳や「えほん遠野物語」シリーズを著し、妖怪画集『暁斎妖怪百景』の文章パートを担当した京極にとって、両者はすこぶる重要な存在だ。第7談では幽霊と怪談の文化的側面が論じられ、第8談と第9談で言葉の話とおばけの話が交わることになる。

日本語と書物に関する持論、水木しげるの人生と仕事、妖怪や怪談への民俗学的アプローチ、言葉とおばけの関係性。これらは互いにつながっており、いわば京極流の思考体系を成している。言葉や妖怪は概念を表す装置であり、人間が答えを導くために機能してきた。そのことを平易に伝えてくれる本書は、示唆に富んだユニークな講演録にして、京極作品を深く理解するためのサブテキストにほかならない。(京極夏彦著/文芸春秋・1760円)

評・福井健太(書評家)


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