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【書評】『とにもかくにもごはん』 「子ども食堂」が支え合いに

夫との仲がうまくいかず会話もなくなった松井波子。ある出来事をきっかけにまた気持ちが寄り添えるかもと思った矢先に、夫が交通事故で亡くなる。物語の導入部分で、読者はおやっと心を留める。波子の夫は事故の被害者であり、生命保険や賠償金、労災まで付いて、さらに住宅ローンの返済免除。てっきり苦労して「子ども食堂」をはじめる話かと思いきや違った。

波子が子ども食堂をはじめることになったのは、夫と最後に交わした言葉に導かれてだ。家でビールを飲むことすらストレスを感じていた夫は公園に場所を求めた。そこで夕飯がわりにパンをかじる小学生のエイシンくんと出会う。その夫が波子に漏らした言葉。「一度でもいいから、エイシンくんにウチでメシを食わしてやりゃよかったなぁ、と思ってさ」。そのとき夫は寂しかったのだろう。だからこそ、エイシンくんに共感できた。波子は「それは、変でしょ」と、切り捨てている。

しかし、夫を亡くしたことで、彼女の心が動きはじめるのだ。心だけでなく行動も。まず子ども食堂を開くための物件を確保する(ここにも後半重要な横糸となるエピソードが秘められている)。次にボランティアの確保。彼女の小気味よい行動力を見ているだけで、読者の心も活性化されていく。

その後は波子が立ち上げた、「クロード子ども食堂」に集まるボランティアや客が、少しずつ心をシフトチェンジしながら物語は進む。

話を戻すが波子にこれだけのことができたのは、経済的にも精神的にも余裕があったからだ。お金のある人がない人のためにそれらを提供するといえば、その印象だけで嫌う人がいるかもしれない。しかしこの物語を読めば、時代は変わりつつあることを知る。そして「問題はあるが正解がない」今の時代とどう向き合えばいいのか、読書の愉(たの)しみの中でこの作品は教えてくれるのだ。

子ども食堂に集う人たちは、お互いがクライアントでありカウンセラーでもある。本来の人間関係ってこうではなかったのかと、気づかせてくれる。

最後のエピソードに読者は「ごちそうさまでした」と、満足のためいきを漏らすだろう。(小野寺史宜著/講談社・1705円)

評・村上しいこ(児童文学作家)


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