『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』オリヴィエ・シボニー著、野中香方子訳(日経BP・2200円)
ビジネスリーダーが間違った意思決定を行うのは、リーダーの無能が原因なのか。著者は、そうではないと否定し、優れたリーダーが失敗を予測できたはずの悪い意思決定を下してしまうのはバイアス(偏向)によるエラーだと指摘する。
本書では、リーダーが陥るバイアスのエラー事例を具体的に列記。「ストーリーテリング・トラップ」の事例を紹介しよう。
フランス政府は飛行機から石油を探知する技術を完成させたと吹聴するペテン師に騙(だま)され、多額の損失を負ってしまった。専門家や政府高官がなぜこんな架空話に騙されたのか。それは人間は生来ストーリーを求めるようにできているから。ペテン師のストーリーにすっかり虜(とりこ)になってしまった専門家たちの判断にバイアスがかかり、疑うことを忘れてしまうのだ。
経営者がM資金や地面師に騙される事件が起きるのもこのトラップに引っ掛かるからだろう。プロ経営者の成功ストーリーを信じ、経営立て直しを任せたら見事に会社がボロボロになってしまうのも同じだ。
エラー事例に対応して意思決定の場でバイアスを防ぐ具体策も提案。その基本を為すのは「協働とプロセス」である。たった一人の経営者が直観を頼りに独断的意思決定をするのではなく、社員や取締役、専門家たちと「協働」し、意思決定「プロセス」を重視すること、そしてそれが有効に働く意思決定アーキテクチャー(組織設計)を構築することがバイアスを防ぐ方法だという。
自信に溢(あふ)れたカウボーイ的リーダーはもはや時代遅れであり、経営者には自分の直観に反していてもチームの判断を尊重する謙虚な姿勢が望まれている。本書に提案されているバイアスを防ぐ具体策の一つでも実施すれば優良な会社になるのではないだろうか。
『アルゴリズムの時代』ハンナ・フライ著、森嶋マリ訳(文芸春秋・1870円) 交差点で車が故障し、ブレーキがかからない。歩行者に突っ込むべきか(あなたは助かる)、道路をそれてコンクリートの壁にぶつかるべきか(あなたは死ぬ)。自動運転車のアルゴリズムで指示するときに守るべき命は、あなたか歩行者か。本書に例示されたアルゴリズムの問題事例によって、読者は人間とAIがいかに共存し協働関係を結ぶべきか、真剣に考えざるをえなくなるだろう。
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えがみ・ごう 昭和29年、兵庫県生まれ。早稲田大卒。銀行員を経て小説家に。『再建の神様』など著書多数。近著に『ディスラプター 金融の破壊者』。
































