中学受験に失敗し、進学先の環境が合わず、2年生から不登校になりました。不登校新聞社の子ども若者編集部の記者をしていた18歳くらいのころに出会ったのが、数学者の森毅さんのエッセーでした。
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『森毅ベスト・エッセイ』に収録されている「佐保利(さぼり)流勉強法虎の巻」です。難問との付き合い方など独特の勉強観や人生論についてつづられていますが、その中の一文に勇気をもらいました。
森さんは《誤りこそチャンス》として、《誤ると困ることはある。しかし、人間にとって、誤らないようにといっても無理な話だ。(中略)誤りを大急ぎで消したり、正しいのに直したりはするまい。ゆっくりと、誤りのままで鑑賞しよう》と記しています。
「テストで誤った」ことで今の状況になっていると思っていたのに、「そんな道もあるのか」と驚きました。
ここから先は読み進められず、1週間以上は考えました。当時は、「こんな人生じゃなかったはずだ」と納得できていなかった。でも、「不登校である自分を楽しむことが必要なんだ」と思うようになりました。
人生の指針も与えてくれました。《問題は解けなくとも、一週間難問とつきあった経験というのはとても力になる》と述べていますが、その言葉を咀嚼(そしゃく)した結果、「問いこそ財産だ」と考えるようになりました。答えが人生を作るのではなく、自分の中の問いが人生を豊かにする宝物なんです。
不登校の経験者は、不登校をマイナスのできごとと捉え、違う経験で補おうとします。でも、必要なのは、学歴やキャリアではなく、葛藤して考えることです。大事なものは内側に眠っています。
原点として何度も読み返したくなるエッセーです。
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いしい・しこう 昭和57年、東京都生まれ。中学2年から不登校になり、フリースクールに通学。不登校新聞のボランティアを経て19歳の時にスタッフに。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』など。