英でガソリン不足深刻化 移民政策に批判

    【ロンドン=板東和正】英国が深刻なガソリン不足に直面している。輸送する運転手が足りず、一部のガソリンスタンドが閉鎖した影響で、供給が滞るとの不安が広がり、買い占めが相次いだためだ。欧州連合(EU)を離脱した英国が、運転手の大半を占めるEUの単純労働者へのビザ(査証)を厳格化したことが労働力不足につながったとみられており、野党などから批判が出ている。

    ロイター通信によると、9月27日時点で英国内で9割近くのガソリンスタンドで在庫が底をつき、一時休業を余儀なくされた。今月1日も在庫があるわずかな店舗に給油待ちの車が殺到し、長蛇の列を作る光景がみられた。

    一部の店舗では、車両が列に割り込み、ドライバー同士が殴り合うトラブルも発生しており、ロンドンのガソリンスタンドに勤務する男性(34)は1日、電話取材に「ここまでの混乱は見たことがない。悲惨だ」と語った。

    事の発端は、英石油大手BPが9月23日、輸送トラックの運転手が不足したとして一部のガソリンスタンドの閉鎖を発表したことだ。これが市民の不安をかき立てガソリンの買いだめに走らせた。英国のガソリン小売業者を代表する「英ガソリン小売協会」のマダーソン会長は英BBC放送に「不足の原因は(需要を急激に上げた)消費者のパニック買いだ」とした。

    運転手の不足は、EU離脱後の移民政策による「弊害」(英石油会社)とみられている。

    英国はEU完全離脱後の1月から、英会話能力や英企業からの正式な雇用契約の有無など一定の基準を満たした移住申請者にだけビザを与えている。それ以前は、EU市民が英国で働くためのビザは必要なかったため、完全離脱以降、単純労働者の移住が減少した。

    さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、帰国する労働者が増えた。BBCによると、英国では現在、10万人以上の運転手が不足している。

    ジョンソン政権が移民の受け入れを厳格化した背景には、離脱の効果を強調する狙いがあったとされる。英国の離脱支持者の多くは、仕事が奪われる不安から移民労働者の流入に不満を募らせていた。

    ただ、英調査会社イプソス・モリが今年6~7月に実施した調査によると、英市民約4000人のうち移民の減少を望むのは45%で、2015年6月時点(66%)より下がった。英国では今年前半から労働力不足で飲食店の閉店が相次ぎ、離脱問題を研究する元保守党議員は「離脱に反対した市民だけなく、離脱支持者の多くもジョンソン政権の移民政策に違和感を覚えるようになった」と分析する。

    英政府は9月25日、運転手5000人に語学などの審査が不要な短期ビザを発給すると表明。陸軍を動員したガソリン輸送の準備も進めているが、野党労働党は「(政府の対応は)根本的な解決にはならない」とし、移民政策が「英国を混乱させた」と非難している。


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