• 日経平均26972.16100.89
  • ドル円135.36135.39

【この本と出会った】ライター・書評家、嵯峨景子 『キル・ゾーン1 ジャングル戦線異常あり』 少女小説 大人に広がる 

ただひたすらに息苦しかった思春期。本を読むことだけが救いであり、慰めだった。そんな私にとって、「コバルト文庫」や「ティーンズハート」をはじめとする少女小説は、心に寄り添ってくれる戦友のような存在だった。

私が少女小説を読み始めた平成初期は、ファンタジーの全盛期。少年を主人公にしたヒット作も多く、多種多様な物語やキャラクターに心をときめかせながら、新刊を追いかけた。

なかでも、須賀しのぶの『キル・ゾーン』と出会ったときの衝撃は忘れがたい。中高生読者に合わせ、主人公を10代にするのが一般的だった時代に、本作のキャッスルの23歳という年齢は斬新だった。そして、彼女の治安部隊の曹長という設定も、異彩を放っていた。

近未来SFアクション小説『キル・ゾーン』は、それまでの少女小説にはないミリタリー要素を打ち出した、須賀しのぶの出世作である。激戦地のジャングルで、ゲリラと死闘を繰り広げるキャッスルの姿は、ほれぼれするほど格好よい。だが私がとりわけ感情移入したのは、彼女が抱える〝怒り〟だった。

凄腕(すごうで)の傭兵(ようへい)であるキャッスルは、戦功を立て、階級を駆け上がる。だが軍隊は男社会であり、女というだけで侮られる機会が少なくない。本作には、女性が女性であるがゆえに、社会の中で味わう屈辱や痛みが描かれていた。そしてその痛みや苦しみは、私自身にとっても切実だった。この物語を通じて、ジェンダーの問題に触れたことで、少女小説がもつ多面的な魅力に一層引き込まれていった。

去年、『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』というブックガイドを刊行し、現在2刷が発売中だ。そもそも少女小説は、批評の俎上(そじょう)に上がりにくいジャンルである。また名作や人気作であっても、時がたてば入手さえ困難になってしまうものも少なくない。作品の再評価や、復刊・電子化の後押しも、この本の大きなねらいだった。

バブル期には巨大なマーケットを築いた少女小説だが、現状は明るいとはいえない。ティーンズハートは15年前に廃刊。コバルト文庫も紙の新刊発行を停止し、今は電子オンリーとなっている。少女小説の市場は、縮小を続けている。だが少女小説的な物語が、途絶したわけではない。ライト文芸という、一般文芸とライトノベルの中間に位置する小説の中にも、その要素は引き継がれているのだ。

集英社のライト文芸レーベル「オレンジ文庫」には、往年のコバルト読者の心にも響くような作品が増えている。往時の少女小説だけでなく、最新の作品も紹介するコンセプトから、ガイドでは狭義の少女小説のみならず、そのエッセンスを受け継ぐライト文芸なども取り上げた。

かつては中高生の少女に支持された少女小説だが、今は大人の女性に愛されるジャンルとなっている。少女小説の過去と現在を踏まえながら、これからも面白い作品を紹介していきたい。(須賀しのぶ著/集英社コバルト文庫・電子版参考価格495円)

【プロフィル】嵯峨景子

さが・けいこ 昭和54年、札幌市生まれ。東京大大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。研究職を経て現在はライター・書評家として活動中。主な著作に『コバルト文庫で辿(たど)る少女小説変遷史』『氷室冴子とその時代』、編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』など。

『キル・ゾーン』(平成7~13年)は番外編・外伝含め全24巻。紙版は品切れで現在は電子書籍のみ。


Recommend

Biz Plus

Recommend

求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)

求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)