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【ロシアを読む】露、北方領土問題「終止符」の構え 税優遇措置に求められる対抗策

ロシアのプーチン大統領は9月、ロシアが不法占拠する北方領土への進出企業に各種の税を免除する新たな措置を導入すると表明した。北方領土での共同経済活動を目指すとした日露合意をほごにし、ロシア単独での北方領土開発を加速させる意思を示したものといえる。ロシアは北方領土での軍事演習や軍備増強も進めるなど、日露間の領土問題に「終止符」を打とうとするような動きを強めている。日本は対抗措置を取る必要に迫られているが、有効な手立てに乏しいのが実情だ。

「前例のない」税制措置

プーチン氏が9月3日に露主催の国際会議「東方経済フォーラム」で表明した新たな措置は、クリール諸島(北方領土と千島列島の露側呼称)に進出する国内外の企業に、所得税や固定資産税などを原則的に10年間免除する内容。プーチン氏は「この措置は日本や第三国の投資家も活用できる」とし、北方領土の発展と日露の協力を実現するための「前例のない」ものだと強調した。

プーチン氏は、今回の措置は北方領土での共同経済活動の実現に向けた日露合意を実現する一歩だとしているが、実際には合意を骨抜きにするものだ。

2016年12月の日露首脳会談での合意に基づく北方領土での共同経済活動は、平和条約締結に向けた信頼醸成措置として、(1)海産物の養殖(2)温室野菜栽培(3)観光開発(4)風力発電の導入(5)ゴミ対策-を日露の政財界が協力してビジネス化するというもの。ただ、「両国の法的立場を害さない」ことが前提で、北方領土を固有の領土と位置付ける日本側はロシアの税法や商法に従うことはできない。第三国資本の呼び込みにも、情勢の複雑化とロシアによる実効支配の強化につながるとして日本は反対してきた。

加藤勝信官房長官は今年9月6日、「露法令を前提とした北方領土開発は日本の立場と相いれない」とし、ロシアに抗議したことを明らかにしたほか、茂木敏充外相も同月23日、米ニューヨークで会談したラブロフ露外相に同様の抗議を伝えた。

しかし、日本の抗議を考慮せず、露政府は新たな措置の具体化作業を進める構えだ。チェクンコフ露極東・北極圏発展相によると、露政府は今年末までの措置導入を目指しているという。ロシアは、日露の立場の違いから進展が見られない共同経済活動に見切りをつけたともいえる。

実効支配を既成事実化

露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータが「日本側が自らの立場に反する新たな措置を活用するはずがない」と指摘するように、今回の措置をめぐるロシアの真意は、北方領土の実効支配を既成事実化し、日露間の領土問題を「幕引き」に追い込むことだとみられる。

それを裏付けるように、今回の発表に先立つ8月16日には、露極東連邦管区大統領全権代表を兼任するトルトネフ副首相が露国営テレビで「クリール諸島は過去も未来もわれわれの領土だ。ただ、領土の帰属問題を生じさせないためにも島々の大規模な開発が必要だ」と述べ、北方領土の経済発展が日本との領土問題に終止符を打つと主張した。

実際に近年のロシアは北方領土開発を加速させている。19年にはサハリン(樺太)と北方領土を結ぶ光ファイバーの敷設を完了。今年に入っても、地熱発電所や液化天然ガス保管施設の建設計画、住宅のガス化計画などを発表した。

ロシアは北方領土で軍備も増強している。主力戦車T72B3や主力戦闘機スホイ35を配備し、対艦・対空ミサイル網も強化。軍事演習も今年だけで少なくとも5回にわたって実施した。

さらに20年の露憲法改正で領土割譲を原則的に禁じる条項を新設した。背景には、安倍晋三前首相とプーチン氏が18年11月、「平和条約締結後にソ連は歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を日本に引き渡す」と定めた1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させる-と合意したことが露社会に反発を呼んだことがあるのは間違いない。

ロシア側は「改憲後も日本との平和条約交渉は続ける」とする一方、平和条約は領土問題とは無関係に結ぶべきだと主張。「平和条約は領土問題の解決後に結ぶ」とする日本の立場との隔たりは深く、交渉は停滞している。仮に「平和条約」を結んでも、歯舞群島や色丹島すら返還される保証はないのが実情だ。

露の攻勢に打つ手は

近年のプーチン政権は日本への態度を硬化させている。その要因は、日本も属する欧米側の自由主義陣営とロシアや中国を主軸とする強権主義陣営の対立の激化や、プーチン政権の支持率が低下する中で「領土」という国民感情を刺激する問題に触れたくないというロシアの内政事情がある。

今年9月、「細菌兵器開発の戦犯」として旧ソ連が先の大戦の日本軍人を裁いた「ハバロフスク裁判」(1949年)をテーマにした学術会議をロシアが開いたことはその端的な現れた。露政府などが共催した学術会議は、「日本=悪」という歴史観を宣伝し、当時有効だった日ソ中立条約を破って行った旧ソ連の対日参戦と、北方領土の不法占拠を正当化しようプロパガンダ(政治宣伝)色に満ちたものだった。

こうしたロシアの攻勢に日本は形式的な抗議をするにとどまり、具体的な対抗策を取れていない。日本国内には、対露経済制裁の発動や平和条約交渉の打ち切り通告といった強硬な対処を取るべきだ-といった指摘もあるが、日本政府はロシアとの決定的な対立を招くリスクへの懸念から、交渉の継続を優先してきた。

しかし、交渉では状況が進展しないことはますます明白になりつつある。日本の次期政権は、より効果的な対露外交の在り方を検討する必要に迫られている。

(モスクワ 小野田雄一)


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